「和風キムチ」を原因食品とする腸管出血性大腸菌O157集団感染事例−埼玉県

(Vol. 22 p 290-291)

埼玉県内にある全寮制の児童自立支援施設M学院の生徒等13名が2001年8月24日から食中毒様症状を呈し、 うち5名が入院した。患者および関係者90名の細菌検査により、 29名から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7 Stx1&2産生株が分離された。

菌が検出された29名のうち、 22名は無症状であったことや、 M学院内の生活環境の特殊性等から、 給食による集団食中毒のほか、 それ以外の感染様式についても検討された。給食の保存検食(8月14〜18日、 20〜24日分)および環境材料から当該菌は検出されなかったが、 喫食調査等から8月20日の夕食または21日の朝食が原因食品として疑われたため、 埼玉県ではこれらのメニューに含まれる食品の遡り調査を実施していた。一方、 同時期に東京都内の複数の家族で発生したEHEC O157食中毒の原因食品として、 埼玉県内で製造された「和風キムチ」が疑われる旨、 東京都から埼玉県に連絡があった。この「和風キムチ」は、 M学院の8月20日の夕食メニューの「キムチ納豆」にも使われていたことから、 埼玉県では、 一連のEHEC O157食中毒の原因食品として疑い、 さらに調査が進められた。

被害の拡散防止のため、 8月1日以降に当該施設で製造された全製品を自主回収するとともに、 報道により一般家庭へ注意を呼びかけた。

回収品、 原材料および施設のふきとり等の検査材料が多数搬入されたが、 発症者が喫食した「和風キムチ」と同時期に製造された製品は含まれておらず、 O157は検出されなかった。当該「和風キムチ」は、 通常のキムチとは製造方法が異なり、 発酵工程がなく、 いわゆる浅漬法で、 賞味期間が5〜14日間と比較的短いこと等から、 8月20日前後に喫食された「和風キムチ」は、 すでに消費あるいは廃棄されているものと思われた。

そのような状況下、 報道によって事件を知ったEHEC O157患者宅から「和風キムチ」の残品が搬入され、 この25gからO157 Stx1&2産生株が分離された。なお、 −20℃に凍結保存した検体の残り10gを用いたMPN 3本法を直ちに実施したが、 MPN値は< 0.3/gであった。

そのほか、 東京都立衛生研究所とのパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)画像のメールによる情報交換および菌株の交換によるDNAパターンの比較解析が同時に進められ、 M学院の患者、 東京都の患者および「和風キムチ」のそれぞれの分離株のXba I処理によるPFGEパターンが一致した()。さらに、 同時期に埼玉県内で発生した散発事例のうち、 PFGEパターンが一致しているEHEC O157患者の喫食に関する再調査で、 同一メーカーの「和風キムチ」を食べていた人の存在が確認され、 今回の事例は、 「和風キムチ」を原因食品とするDiffuse outbreakであったことが明らかとなった。

県内各機関ならびに自治体間の協力体制と、 報道による情報公開が事件の解決に効果を発揮した事件であった。「和風キムチ」の汚染原因については、 現在調査中である。

埼玉県衛生研究所
斎藤章暢 大塚佳代子 倉園貴至 尾関由姫恵 山口正則 岸本 剛 青羽信次
埼玉県中央保健所
埼玉県大宮保健所
埼玉県鴻巣保健所

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