2001年10月5日採取の検体より、 今シーズン初と思われるA(H3)型インフルエンザウイルスが1例分離されたので報告する。
患者は仙台市内に住む0歳10カ月の男児であり、 10月4日に発症し、 その後38℃台の発熱と強い咳症状が続いたため、 10月9日に市内の病院を受診し、 そこで下気道炎の診断にて入院している。その後熱は37℃台に下がり10月11日に退院している。
10月5日同病院で採取した咽頭ぬぐい液は、 国立仙台病院ウイルスセンターに送られ、 10月12日同センターにて臨床検体から呼吸器系ウイルス全般の日常的分離・スクリーニングを目的として用いられているHHMV(HEp-2、 HEF、 MDCK、 Vero細胞)およびHMV-II細胞マイクロプレートシステムに接種したところ、 MDCK細胞のみに接種3日目に中等度のCPE 像が認められた。そのためインフルエンザウイルスを疑い同細胞で継代したところ、 2代目で強いCPE が観察された。しかし、 細胞培養上清には 0.5%七面鳥赤血球ではHA価測定でも顕微鏡下でも血球凝集性が認められず、 モルモット血球にてかろうじて凝集性が認められる程度であった。そこでMDCK細胞でもう1代継代を試みたところ、 接種後3日目で100%のCPEが認められた。この培養細胞上清についてHA価を測定したところ、 やはり0.5%ニワトリ赤血球では1:2以下、 七面鳥赤血球で1:2、 0.5%モルモット血球で1:8であり(いずれも4℃で反応を行った)、 低い血球凝集性しか示さなかった。
10月22日、 MDCK3代目の分離ウイルスについて、 国立感染症研究所より分与された2000/01シーズン検査キットの抗血清を用いたHI試験を行ったところ、 抗A/Moscow/10/98(H1N1)およびA/New Caledonia/20/99(H1N1)、 B/Yamanashi(山梨)/166/98、 B/Shangdong(山東)/07/97血清はいずれもHI価10以下と、 反応性を示さなかったが、 抗A/Panama/2007/99(H3N2)およびA/Sydney/5/97(H3N2)血清はそれぞれ80および20と、 低いながらも反応した(ホモ価、 前者についてモルモット赤血球にて640、 七面鳥赤血球にて1,280)。この結果、 同分離ウイルスは、 H3亜型のA型インフルエンザウイルスであると同定された。
なお、 聞き取り調査によれば、 当患児の母親も、 患児と同時期の10月4日〜9日にかけ39℃台の発熱と全身の強い関節痛があり、 かなりの重症感を伴うインフルエンザ様症状を示し近医に受診していたという。また父親も10月5日発症で、 高熱が1週間ばかり続いていたという。この父母の具合が悪いため、 隣接するN市から手伝いに来ていた患児の祖母も、 10月10日〜14日にかけ発熱があったという。これらの大人たちについてはウイルス分離は試みられてはいないが、 家族内発症が強く示唆されるものである。
本邦では本年非流行期8月29日に沖縄でA(H3)型が1株分離されているが(本月報Vol.22、 No.10参照)、 今回はそれ以来のA(H3)型ウイルスの分離となった。この10月に採取した検体からのウイルス分離を2000/01シーズンのウイルスの名残の、 非流行期の分離とするか、 あるいは来たる2001/02シーズンのはしりと位置付けるかは、 議論のあるところであり、 今後の解析にかかっている。なお、 仙台市内では同時期にこのほかにも分離はできなかったものの、 簡易抗原検出キットによりA型インフルエンザ陽性と出た患者の例も見られている。ただし、 それ以降現時点(10月23日)まで仙台市内におけるインフルエンザの分離はない。
今回の分離ウイルスがニワトリのみならず、 七面鳥赤血球にも凝集性が乏しかったことは、 今後同様のウイルス分離においては、 分離手技上赤血球の選択には注意を要することを示唆している。これまでニワトリ赤血球を凝集せず、 モルモット血球で反応するウイルスの分離例は多かったが、 それでもその大半は七面鳥血球を凝集していたからである。さらにHI試験の結果からは、 抗原性が2001/02シーズンのワクチン株A/Panama/2007/99(H3N2)と異なる可能性も示唆されており、 今後のウイルス分離の動向には注意が必要と思われる。
国立仙台病院ウイルスセンター
(Vol. 22 p 289-289)
岡本道子 千葉ふみ子 伊藤洋子 近江 彰 西村秀一
東北厚生年金病院小児科 貴田岡節子
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