(2000年12月3日現在)
厚生労働省感染症流行予測調査事業では、 都道府県ならびに都道府県衛生研究所と協力して、 予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。
インフルエンザについては、 本年度もインフルエンザ流行シーズン前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、 速報として報告されたデータから、 年齢群別抗体保有状況について掲載する。
本年度のインフルエンザHI抗体測定には、 次の4抗原が使用された。このうち1、 2、 3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。
1.A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
2.A/Panama(パナマ)/2007/99 (H3N2)
3.B/Johannesburg(ヨハネスバーグ)/5/99
4.B/Akita(秋田)/27/2001
2001/02シーズンワクチン株選定の経緯については、 本月報Vol.22、 No.9掲載「平成13年度(2001/02シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株の選定について」を参照いただきたい。
インフルエンザ情報については、 インフルエンザQ&A 平成13年度版(2001年11月改訂、 http://idsc.nih.go.jp/others/topics/inf-faq.html)に今年の予防接種法改正の内容などを盛り込んで詳しく紹介されている。また、 IDWR 2001年44週(idwr2001-44.pdf)の「感染症の話」はインフルエンザであり、 疫学、 病原体、 臨床症状、 病原診断、 予防・治療に関して詳しい解説がなされているのでこれからのシーズンに有用である。
調査対象数:2001(平成13)年11月20日現在、 北海道、 山形、 長野、 福島、 秋田、 静岡、 神奈川、 佐賀、 高知、 熊本、 奈良、愛知、山梨、新潟の14県から合計3,278検体分の調査成績が寄せられた。年齢群別の検査数は、 0〜4歳:366例、 5〜9歳:380例、 10〜14歳:352例、 15〜19歳:333例、 20〜29歳:413例、 30〜39歳:405例、 40〜49歳:344例、 50〜59歳:347例、 60歳以上:338例であった。
図1はA型インフルエンザ、 図2はB型インフルエンザのHI抗体保有率を抗体価別に表示した。有効防御免疫の指標はHI抗体価40以上であるとされている。図3には、 1999、 2000および2001年度のワクチン株に対するHI抗体価40以上保有率の比較を示した。
A/New Caledonia/20/99(H1N1) に対する抗体保有率:有効防御免疫の指標とみなされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、 5〜19歳では約30〜50%であったが、 0〜4歳群では20%以下、 20歳以上の年齢層ではすべての年齢層で10%以下と極めて低い。今年のワクチン株3株の中ではこの株に対する抗体保有率が最も低い。
A/Panama/2007/99(H3N2)に対する抗体保有率:5〜19歳の若年層ではHI抗体価40以上の抗体保有率は約50〜80%と高かったが、 その他の年齢層では20%前後と低い。
B/Johannesburg/5/99に対する抗体保有率:5〜19歳の年齢層ではHI抗体価40以上の抗体保有率は約40〜60%であったが、 その他の年齢層ではいずれも30%以下と低い。特に0〜4歳群と40歳以上で保有率が低い。
B/Akita(秋田)/27/2001に対する抗体保有率:本株は、 山形系統である今年のワクチン株B/Johannesburg/5/99と異なり、 Victoria系統株である。今年初めに秋田で分離されたこと、 今年のワクチン株とは系統が異なることから調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率は、 全年齢層で極めて低い。
コメント:2000/01シーズンの流行はA(H1N1)型インフルエンザウイルス(以下A/ソ連型)、 A(H3N2)型インフルエンザウイルス(以下A/香港型)、 B型インフルエンザ(以下B型)の混合流行(分離株比率、 2:1:2)であったが(本月報Vol.22、 No.10参照)、 流行の規模は例年に比して小さく、 流行開始時期が遅かったこと、 夏季にもA/香港型(本月報Vol.22、 No. 10参照)およびB型(本月報Vol.22、 No.7&Vol.22、 No.8参照)が分離されていたことが特徴である。
今シーズンは既に仙台からA/香港型、 および名古屋からB型の分離報告がなされている(本月報Vol.22、 No.11参照)。仙台で分離されたA/香港型はHI試験の結果から、 抗原性が2001/02シーズンのワクチン株A/Panama/2007/99(H3N2)と異なる可能性が示唆されており注意が必要である。
昨年度と比較すると、 抗体保有率はワクチン株3株ともわずかに上昇しているもののまだ十分とは言えない。成人層、 特に高齢者層は保有率が低く、 多くの高齢者がワクチン接種を積極的に受ける必要性があると考えられる。
A/ソ連型は、 乳幼児期と特に20歳以上のすべての年齢群で極めて低いため、 今シーズンも引き続き警戒が必要である。
A/香港型は、 A/ソ連型同様、 昨年度より抗体保有率の上昇は認められたものの、 20歳以上の成人および高齢者層では十分とは言えないことなどから、 ワクチン接種によって高い抗体価を獲得することが必要である。
B型については、 今年度のワクチン株B/Johannesburg/5/99に対する抗体保有率は0〜4歳群ならびに40歳以上の年齢群で全年齢層にわたって低いことから、 ワクチン接種によって高い抗体価を獲得することが必要である。
B/Akita/27/2001に対しては全年齢層で極めて低い抗体保有率であり、 夏季に分離されていたB型インフルエンザがこの株と同系統に属するVictoria系統株であったことから(本月報Vol.22、 No.7&Vol.22、 No.8参照)、 このウイルス類似株の動向には注意が必要である。
本速報は感染症情報センターホームページhttp://idsc.nih.go.jp/yosoku99/FlusokuJ/Flusoku.htmで随時更新予定である。
国立感染症研究所
ウイルス第一部・呼吸器系ウイルス室
感染症情報センター・予防接種室