生物テロ関連炭疽の調査および暴露の際の取り扱い・抗菌薬治療の暫定的ガイドライン、 2001年10月−米国・CDC
(Vol.22 p 321-322)

2001年10月3日以降、 CDCや保健当局により生物テロ関連炭疽の調査がなされており、 現時点での調査結果、 暫定的な対策、 および治療のガイドラインを示す。

10月24日までにワシントン特別区(DC)、 フロリダ州、 ニュージャージー州、 ニューヨーク市(NYC)、 メリーランド州、 ペンシルバニア州、 バージニア州で15例が確認されている。15例中7例は肺炭疽、 8例が皮膚炭疽である。分子生物学的な解析ではフロリダ、 NYC、 ワシントンDCからの分離株は区別できない。

分離炭疽菌の抗菌薬感受性:フロリダ州、 NYC、 ワシントンDCで分離された炭疽菌の抗菌薬感受性が調べられた。炭疽菌の感受性のブレイクポイントは米国臨床検査標準委員会(NCCLS)で決められていないので、 ブドウ球菌のものを使用し、 セフトリアキソンに関してはグラム陰性桿菌の感受性の基準を用いた(表1)。自然界の炭疽菌もセファロスポリナーゼ、 ペニシリナーゼを産生することがあるが、 現在までの感受性試験から、 今回の株がこれらの酵素やβ-ラクタマーゼを産生している可能性がある。

MMWR編集者より:炭疽菌を用いて郵便によって引き起こされた生物テロでは、 15人の患者が発生し、 3人が死亡した。炭疽菌は意図的にまかれたものであるから、 連邦捜査局(FBI)をはじめさまざまな当局が調査している。

また、 炭疽の患者を確認したり、 明らかな暴露が生じた場合にはすみやかな疫学的調査が必要である。炭疽に暴露された可能性がある場合には、 予防内服の適応となる。

炭疽患者の治療に際しては早期診断、 早期治療が重要である。感受性が判明するまでは、 シプロフロキサシンかドキシサイクリンがよいであろう。肺炭疽の死亡率からすると多剤併用療法も検討され、 シプロフロキサシンやドキシサイクリンとの併用で有効性が示唆されるものとして、 リファンピシン、 バンコマイシン、 イミペネム、 クロラムフェニコール、 ペニシリン、 アンピシリン、 クリンダマイシン、 クラリスロマイシンなどがある。セファロスポリンとST合剤は使うべきでない。ペニシリンは肺炭疽の治療薬として記載されているものの、 今回のテロでの炭疽菌ではβ-ラクタマーゼ産生が誘導されるとの情報もあるため、 全身性炭疽感染をペニシリン単剤で治療するのは好ましくない。また、 ゲノム上に二つのβ-ラクタマーゼがコードされており、 半合成ペニシリンの使用中にペニシリン耐性化したとの報告もある。クラブラン酸も暴露菌量が多いときには臨床的に無効である。全身性の炭疽感染症では毒素による病態も重要であり、 ステロイド療法も検討される。

皮膚炭疽に関しても、 シプロフロキサシンかドキシサイクリンがまず投与される。全身感染や重症のときは、 肺炭疽と同様に併用療法が薦められる。皮膚炭疽においては抗菌薬内服24時間で病巣からの菌は消失する。一部の専門家によると、 頚部や顔面の腫脹が強い皮膚炭疽のときは、 ステロイド投与も考慮すべきである。普通皮膚炭疽の治療は7〜10日間であるが、 今回のテロに関連した症例では吸入している可能性があり、 60日間治療がなされる。

予防内服もシプロフロキサシンかドキシサイクリンであるが、 両方とも使用できない場合には大量ペニシリンが適用される。すべての薬剤は副作用やアレルギー反応を起こしうるため、 臨床家は十分注意して処方すべきである。

これは米国における最初の炭疽菌による生物テロである。その影響はいまだに広がっており、 更新情報がMMWRに掲載される。

(CDC、 MMWR、 50、 No.42、 909-919、 2001)

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