2001年10月、 呼吸器症状を呈した小児からのパラインフルエンザ1型ウイルスおよびエンテロウイルスの比較的高率な分離−仙台市・山形市
(Vol.22 p 318-319)

2001年(平成13年)10月に仙台市および山形市の小児科医療機関を訪れた発熱および呼吸器症状を示す多数の小児から比較的高率にパラインフルエンザ1型ウイルスを分離した。また、 9月後半〜10月終わりまでエンテロウイルスの高率な分離が続いたので報告する。

例年仙台市においても12月にはインフルエンザウイルスの流行が始まるが、 一昨シーズンには11月に早々とインフルエンザウイルスが分離され始めた一方で、 昨シーズンは流行の始まりは遅く、 1月になるまで見られなかった。しかし同シーズン、 仙台市では11月から発熱・呼吸器症状を呈するアデノウイルスの流行が捉えられており、 インフルエンザとの鑑別が必要とされた(本月報Vol.22、 No.2参照)。

本シーズン、 我々は仙台市において10月5日の検体からA(H3) 型インフルエンザウイルスを1件分離しているが(本月報Vol.22、 No.11参照)、 それ以降インフルエンザウイルスは現在(11月25日)に至るまで分離できていない。しかし、 その間インフルエンザ様症状を示す患者からパラインフルエンザ1型ウイルスおよびエンテロウイルスが比較的高率に分離された。

当ウイルスセンターにおけるパラインフルエンザ1型ウイルスの分離は、 おもにヒトメラノーマ由来の培養細胞HMV-IIでモルモット血球の吸着反応(HAd試験)陽性、 最終的ウイルス同定は感染細胞と抗パラインフルエンザウイルス血清(デンカ生研)を用いた赤血球吸着阻止試験(HAdI試験)ならびに培養上清を用いた赤血球凝集阻止試験(HI試験)により行っている。エンテロウイルスは、 HEF(human embryo fibroblast)ならびにVero細胞での特徴的CPEにより検出し、 その後GMK細胞とRD細胞を用いた中和試験によって型別している。

パラインフルエンザ1型ウイルスの流行:最初に流行が示唆されたのは山形市であった。A小児科を受診した発熱および呼吸器症状を示す患者からの同ウイルス分離は、 本年8月は19検体中1件もなかったが、 9月になって4/50件(8%)が、 10月第1週〜4週には5/46件(約11%)となった。一方、 仙台市の検体でも山形市での傾向と同様に、 8月は158検体中1件のみであった。9月は9/211件(4%)であったが、 ピーク時となった第3週にはB小児科からの5/26件(19%)から分離されている。10月も第1週、 2週は 6/104件(約6%)と、 仙台市においても小流行があったことを示唆する成績であった。しかしながら、 10月第5週以後は両市由来の検体からの分離は1件もなく、 この流行はおさまったようである。なお、 1型以外のパラインフルエンザウイルスの分離は8月に2型が1件あったのみで、 秋には1件もなく、 この1型の流行を際立ったものにしていた。また、 アデノウイルスに関しても9月、 10月あわせて山形の検体からは4件、 仙台の検体からは5件の分離があっただけであった。

エンテロウイルスの流行:山形市の検体からは流行を示唆するような傾向は認められなかった。仙台市における検体では、 6月〜9月第1週までの4カ月間に14の分離であったが(8月〜9月第1週までは6件)、 9月第2週目以降分離が相次ぎ10月終わりまで、 検査した38/444件(約9%)から分離された。ピーク時の9月第2週、 4週、 10月第2週、 3週、 5週には、 B小児科に限って見れば検体の20〜40%(各週20〜25検体中5〜8件)でエンテロウイルスが分離されていた。また、 11月第3週も4/15件と分離が続いている。なお、 分離ウイルスの型同定は現在進行中であるが、 現在までにB群コクサッキーウイルス4型(36%)、 A群コクサッキーウイルス16型(16%)が判明した。残りは未同定で、 RD細胞で増殖するウイルスが29%、 GMK細胞で増殖するウイルスが16%である。

考察:仙台市において本年10月5日の検体からインフルエンザA(H3)型ウイルスが分離されている。また、 同時期に、 分離はできなかったが簡易抗原検出キットでA型インフルエンザ陽性となった例があり、 その後も同様の情報もあったが、 11月18日採取の検体までインフルエンザウイルス分離はなされていない。しかし、 この間も発熱・咳等の呼吸器症状を主訴とするインフルエンザ様患者が多発しているという情報があった。これらと今報告の分離成績を重ね合わせて考えると、 少なくとも仙台・山形両市における小児科領域に関する限り、 本年10月、 発熱をともなう呼吸器疾患のかなりの割合がパラインフルエンザ1型ウイルスおよびエンテロウイルス感染によるものであった可能性が強く示唆された。

過去において、 この時期呼吸器系ウイルスの高率な分離は、 1988年、 1992年、 1994年、 1996年、 1998年とほぼ2年おきに山形市でパラインフルエンザ2型が小流行し(1カ月に10件前後分離)、 仙台市においてもパラインフルエンザ2型の小流行が1991年(分離は月10件弱)、 1992年(同5件)、 1996年(同25件)にあり、 1997〜99年にパラインフルエンザ1型の小流行が見られている。

今秋仙台市、 山形市において熱性疾患のかなりの部分にパラインフルエンザウイルスが、 そして仙台市ではさらにエンテロウイルス感染が関係していた事実は、 これまでの十数年来の分離成績とともにこの時期感染症患者サーベイランス、 特にインフルエンザ流行の開始時期の判断といった観点から重要であり、 今後も十分に留意すべきと思われる。

インフルエンザ様疾患の中にかなりRSやアデノウイルスが含まれていることが明らかにされている。これらのウイルスならびにA型およびB型インフルエンザに対しては最近、 簡便な迅速抗原検出キットが豊富に出まわっており、 ある程度それらウイルス間の鑑別は容易になってきている。しかし、 これらとてまだ感度の面で全幅の信頼をおけるものではない。まして、 パラインフルエンザやエンテロウイルスのように、 まだ簡易キットのないウイルス性疾患については、 鑑別を確実に行うという意味においても、 今回の出来事は、 簡易キットが汎用されるようになってきた現在においてさえ、 種々の呼吸器系ウイルスの分離が非常に重要であることをあらためて認識させてくれたと言える。

国立仙台病院ウイルスセンター
近江 彰 岡本道子 千葉ふみ子 伊藤洋子 西村秀一
永井小児科医院 永井幸夫
勝島小児科医院 勝島矩子
東北厚生年金病院小児科 貴田岡節子

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