2001(平成13)年6月28日、 医療機関から下痢と血便を主症状とした2歳の女児から腸管出血性大腸菌(EHEC)O26を検出したので、 入院させる旨の連絡があり、 管轄保健所が調査を開始した。
調査の結果、 患者宅では飲み水を市上水道から、 雑用水(食器洗い・風呂等に使用)は地区が管理し各家庭に給水している山水を使用していることが判明した。この給水施設は、 谷川の中に簡易濾過装置を設置し、 水を採取した後、 水源貯留タンク、 配水タンクを経由して、 患者が発生した地区の37世帯141名に配水していることが分かった。患者宅に残っていた食材や環境調査に併せて、 この山水が感染源ではないかと疑い、 細菌検査を実施したところ、 患者宅の山水を取り入れている蛇口から採取した水と水源貯留タンクの水からO26を検出した。直ちに、 この地区の給水施設を使用している住民を対象に説明会を開き、 感染拡大防止措置として、 給水施設の消毒と使用を禁止することの理解を求めるとともに、 各家庭を訪問して健康調査、 山水の使用状況調査と検便検体提出の依頼を行った。
患者宅の聞き取り調査では、 患者以外下痢等の症状を呈した人は認めなかったが、 残り家族9名のうち、 父、 母、 叔父、 従兄弟2名の計5名からO26を検出した。地区住民の健康調査では、 下痢等の症状のある人は認めなかったが、 131名のうち116名について検便を実施した結果、 成人男性2名、 成人女性1名、 子供2名の健康保菌者がみつかった。
患者1名と患者家族を含めた健康保菌者10名と、 患者宅の蛇口および配水タンクの水から検出したO26はすべてO26:H11、 毒素型がVT1で、 12薬剤を用いた薬剤耐性試験でカナマイシン、 テトラサイクリン、 アンピシリン、 ストレプトマイシンの4薬剤に耐性を示す多剤耐性菌であり、 パルスフィールド・ゲル電気泳動による遺伝子解析でも同一のパターンを示したことから、 感染源はこの山水であることが判明した。また、 事件発生数日前に大雨が降り、 この谷川が増水混濁したことがO26の汚染に関与したのではないかと推察されたが詳細は不明である。
この感染症事例は住民が自治会給水施設の山水を介してEHEC O26に感染したが、 管轄保健所の迅速な対応で感染拡大防止ができた事例である。
島根県保健環境科学研究所・感染症疫学科 保科 健 板垣朝夫 関 龍太郎
島根県出雲健康福祉センター 山本和子 増田省一 椋 達則 岡田尚久
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