2001年10月に大阪市内の保育所(園児81名、 保育士13名、 調理従事者2名)の園児において嘔吐・下痢を主症状とする集団胃腸炎事件が発生し、 患者便からノ−ウォ−ク様ウイルス(NLV)を検出したので報告する。
患者発生は保育所の3歳〜5歳児までの3クラス58名中18名(男14名、 女4名、 3歳児クラス2/15名、 4歳児クラス11/22名、 5歳児クラス5/21名)であり、 10月19日15時30分〜20日0時30分にかけて嘔吐・下痢を主症状とする胃腸炎を発症していた。患者の症状は下痢13名(72%)、 腹痛5名(28%)、 嘔吐18名(100%)、 発熱7名(39%、 37℃〜38.9℃)、 悪寒1名(5.6%)であった。本事例の患者発生状況は19日夜をピ−クとした一峰性であったため、 単一暴露が起こっていたものと考えられ、 当初食中毒が疑われた。喫食調査では牛乳以外に共通食品がなく、 10月19日に園児が飲用した牛乳からは食中毒菌およびブドウ球菌エンテロトキシンは検出されなかった。保育所調理場のふきとり検査、 10月16日〜19日の保存食、 調理従事者便および患者便2検体についても食中毒菌の検索を実施したが、 特定の食中毒菌は検出されなかった。
そこでRT-PCR法を用いたNLVの検査を行ったところ、 患者便2検体からNLV遺伝子が検出された。調理従事者便からはNLV遺伝子は検出されなかった。また園児が受診したサ−ベイランス病原体定点の病院から集団発生疑いで6検体の患者糞便検体が搬入され、 すべての検体からNLV遺伝子が検出された。検出されたNLVの遺伝子型はすべてgenogroup II(プロ−ブ型はP2-B型)であった。保育所の情報では、 数日前より、 教室内で嘔吐した園児や風邪をひいている園児がいたということであった。上記サ−ベイランス病原体定点においては10月上旬より、 感染性胃腸炎患者が急増しており、 本事例以外で10月8日〜24日の期間に胃腸炎症状を主訴とする患者糞便検体から同じプロ−ブ型のNLVが8/15名(53%)と高率に検出され、 NLVによる胃腸炎の地域流行が示唆された。
以上のことから、 本事例は食品を介した感染事例ではなく、 NLVに感染した患者から吐物等を介して直接ヒトへ感染が拡がった事例であると考えられた。本事例においては二次感染防止のため、 保健所および当該地区保健センタ−合同でウイルス性胃腸炎に関する知識の普及と、 本疾病が疑われる患者の吐物・糞便の適切な処理について指導を行った。その後、 園内における感染は終息した。
NLVは感染力が強く、 吐物等を介して直接ヒトに感染し、 特に施設内で感染が拡大した事例の報告は少なくない。10月から冬季にかけてNLVによる胃腸炎が流行する時期であり、 特に地域的な流行が認められるような場合は、 保育所や学校などの施設では嘔吐・下痢を呈する患者の発生に注意し、 適切に対処する必要がある。
最後に本事件に関して疫学等の情報収集に協力していただいた大阪市保健所および関係保健センタ−各位に深謝いたします。
大阪市立環境科学研究所 入谷展弘 勢戸祥介 久保英幸 小笠原 準 春木孝祐
済生会泉尾病院小児科 大川 薫