海外の農場視察旅行中に同時感染したQ熱患者3例

(Vol.23 p 14-14)

Q熱はリケッチアの一種Coxiella burnetii による人獣共通感染症で、 ヒトの感染源として家畜や愛玩動物が重要であり、 主に菌を含む感染動物の尿、 糞、 胎盤、 羊水などにより汚染された環境中の粉塵やエアロゾールを吸入し感染する。

今回、 オーストラリアおよびニュージーランドの農場視察に参加した畜産関係者3名が現地でQ熱に感染し、 帰国後発症した症例を経験した。3名は2001(平成13)年9月7日〜12日まで、 オーストラリアのブリズベーン、 シドニーおよびメルボルンに滞在し近郊の農場を視察、 その後13日にニュージーランドに移動し17日まで滞在した。ニュージーランドにはQ熱が存在しないためオーストラリアで感染したと思われる。ここでは、 3名の患者の症状、 PCR法による遺伝子検出の結果、 血清抗体価について報告する。

患者A:56歳、 男性。9月20日頃より全身倦怠感および微熱がみられた。9月28日にX医院を受診し、 39℃台の発熱、 CRP (8.0)、 GOT (59IU/l)およびGPT (69IU/l)の上昇がみられたが、 本人の希望により通院加療となった。しかし症状が改善せず、 10月2日再来院した。この時、 血小板減少(2.5×104/ul)、 CRP (34.0)、 GOT (126IU/l)およびGPT (97IU/l)はさらに上昇していいたため入院加療となり、 ペニシリン系およびカルバペネム系抗菌薬、 ガンマグロブリン製剤などを投与した。5日に旅行の同行者2名も発症していることが明らかとなり、 患者の旅行歴および現地情報から本症を疑い、 11日よりミノサイクリンの投与を開始した。13日には血小板も10.4×104/ulまで回復し、 全身症状も改善がみられ、 15日に退院した。国立感染症研究所ウイルス第一部リケッチア・クラミジア室(以下、 感染研)で血清診断およびPCR法による遺伝子検出を行った。

患者B:62歳、 男性。10月1日より全身倦怠感、 筋肉痛、 関節痛などを訴え2日にY医院を受診、 5日には38.5℃の発熱、 血小板減少、 肝機能異常がみられた。4〜5日には解熱、 症状も改善したが、 肝機能異常は継続した。9日には倦怠感など自覚症状がすべて消失した。11日に他の患者と同様に本症を疑いミノサイクリンの投与をはじめた。鳥取県衛生研究所および感染研で血清診断およびPCR 法による遺伝子検出を行った。

患者C:54歳、 男性。10月3日より全身倦怠感、 関節痛、 38.5℃の発熱がみられ、 6日にZ医院を受診した。この時には、 血小板減少、 軽度の肝機能障害、 CRPの上昇(6.2)がみられた。しかし、 胸部X線撮影で異常はみられなかった。9日には解熱し、 関節痛も消失した。11日に他の患者と同様に本症を疑い、 ミノサイクリンの投与を開始した。14日には倦怠感が消失、 19日には肝機能障害も改善した。愛知県衛生研究所および感染研で血清診断およびPCR法による遺伝子検出を行った。

結果:3人の患者すべてで、 急性期と回復期の血清でC. burnetii II相菌に対する4倍以上の抗体上昇がみられた(表1)。また、 患者Aの急性期の血清および全血中から、 外膜蛋白質遺伝子com1を標的としたnested PCR法により本菌の遺伝子が検出された(表2)。しかし、 患者BおよびCからは検出できなかった。

まとめ:今回の症例は海外で感染した、 いわゆる輸入症例であったが、 これまでわが国では輸入例、 国内感染例をあわせても、 3人同時に感染し発症した症例の報告はない。患者は発熱、 倦怠感、 血小板減少、 肝酵素の上昇など、 典型的な急性型Q熱の病態を示し、 呼吸器症状がないタイプであった。すべての患者においてペア血清でII相菌に対する有意な抗体価上昇がみられたこと、 さらに患者Aの血中から本菌の遺伝子が検出されたことから、 Q熱と確定診断された。また、 患者の症状が重いほど、 潜伏期の長さが短く、 暴露された菌量により異なる症状を示した可能性が示唆された。さらに、 症状および検査所見などの詳細な調査、 他の遺伝子を標的としたPCR 法による遺伝子検出、 I相菌に対する抗体価の測定、 抗体価の長期フォローアップなどを行い、 今後の臨床診断および実験室診断に役立てたい。

最後になりましたが、 これまでの調査・研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。また、 今後ともご協力の程よろしくお願い申し上げます。

鳥取県河本医院 河本知秀
兵庫県協立病院 打田裕一
愛知県厚生連加茂病院 加藤活大
鳥取県衛生研究所・微生物科 川本 歩
愛知県衛生研究所・微生物部 山下照夫
国立感染症研究所・ウイルス第一部 小川基彦 岸本寿男(連絡先)

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