2001年8月、 佐賀市内の高校生219名、 職員等17名が参加した中国の修学旅行に起因する毒素原性大腸菌(ETEC)による集団下痢症の概要を報告する。
旅行期間は8月20日〜24日までの5日間で、 中国の北京地方を旅行した。25日、 医療機関より食中毒様症状を示している者が受診したとの連絡が佐賀中部保健所にあった。旅行者236名中有症者は139名で、 そのうち生徒134名、 教師5名であった。医療機関を受診した有症者は生徒5名であった。
旅行2日目で有症者が発生しており、 帰国翌日(6日目)がピークで、 その後も初発から11日間有症者が発生した(表1)。症状については下痢症状が最も多く、 発熱、 嘔気は14〜18%で、 嘔吐はなかった(表2)。佐賀中部保健所が調査を行ったが、 原因食品は特定できなかった。
有症者のうち54名の検便検査を行った結果、 24名からETECが検出された(表3)。検査法はDHL培地からcolony sweep法によりPCR検査をおこない、 STもしくはLT産生性が確認されたものからさらに、 単独のコロニーについてSTもしくはLT産生性の検索をおこなった。STもしくはLT産生性が確認された菌株の血清型を検査した結果、 ST産生性ETECの血清型は6パターン検出され、 ST&LT産生性ETECとの混合型が1名検出された。このことは食品が数種類の毒素原性大腸菌で汚染されている可能性と、 ETECの潜伏期間が1〜数日であることより、 感染機会が複数である可能性も考えられた。海外由来の食中毒はこのようなパターンが他県の事例(本月報Vol.22、 No.8参照)でも報告されている。
近年、 海外旅行が増加しているため、 今後もこのような事例が増加することが考えられ、 海外旅行者の集団下痢症の菌検索については複数の毒素産生性・血清型などを念頭においた検査が必要と思われる。
佐賀県衛生薬業センター 増本喜美子 森屋一雄 隈元星子 下平裕之
佐賀県佐賀中部保健所・衛生対策課食品衛生係