仙台市における12月初旬のB型インフルエンザウイルスの分離

(Vol.23 p 10-11)

仙台市の呼吸器系感染症症状を示した患者から2001年12月3日、 6日、 10日および11日に採取された臨床検体より、 B型インフルエンザウイルスが分離されたので報告する。

症例1および2:患者はともに仙台市内のA病院に整形外科疾患で入院中の60代 の女性であり、 一人は12月2日に37℃台の発熱、 頭痛、 強い咳を主訴として発症し、 その翌日も38℃台の発熱と頭痛、 強い咳症状が続き同病院呼吸器内科を受診し、 そこで上気道炎の診断を得ている。この患者についてインフルエンザを疑い、 同日咽頭ぬぐい液を採取、 そのぬぐい液は翌日まで4℃で保存された後、 国立仙台病院ウイルスセンターにてウイルス分離が試みられ、 6日になってインフルエンザウイルスが分離された。その後同患者はノイラミニダーゼ阻害剤の投与を受け、 熱は36℃台に下がり、 軽快している。

もう一人は前者と同室で、 12月6日に前者がインフルエンザと診断された時に、 37℃台の発熱があったため検査目的で咽頭ぬぐい液を採取し、 インフルエンザウイルスが分離されたものである。入院患者に初発のインフルエンザ感染者が出た同病院では、 院内感染対策委員会を中心に、 周囲に感染が広がらないよう患者の個室管理等種々の措置、 工夫が行われ、 また院内サーベイランスが強化されたが、 その後院内感染として流行が広まった形跡はない。

症例3:患児は仙台市内在住の7歳男子であり、 12月8日夜に39.0℃の発熱が始まり10日朝まで39℃台の熱が続き、 10日市内のA小児科医院を受診し、 そこで上気道炎の診断を得ている。症状は発熱および咽頭痛、 食欲不振、 全身倦怠であり、 臨床検査値上は白血球数3,300、 CRP値0.3、 インフルエンザ抗原簡易検出キット陰性であった。その後同患児は11日になって解熱し、 回復している。同患児の家族内での有熱者は現在に至るまで出ていないが、 母親が同時期より咽頭痛、 咳、 鼻汁を訴えていたという。また患児の通う小学校でのインフルエンザの流行を疑うような情報は今のところない。

症例4:患児は仙台市内在住の2歳男子であり、 12月8日夜に40℃台の発熱、 咳、 鼻汁が始まり、 翌9日には咽頭痛も訴え、 市内の急患センターを受診した。10日には一度平熱にもどったが、 11日に保育所で保育中に再び38.5℃の発熱があり、 同日夕方同じくA小児科医院を受診している。この時点では熱はあるものの食欲はあり、 やや不機嫌といった様子であった。38℃台の熱は13日まで続いたものの、 その後患児は回復している。

症例3、 4においてはそれぞれ10日、 11日に咽頭ぬぐい液が採取され、 前者においてはその翌日まで、 後者においては3日間4℃で保存された後、 国立仙台病院ウイルスセンターにてウイルス分離が試みられた結果、 それぞれ3日目にインフルエンザウイルスが分離された。

分離ウイルス:上記患者由来の咽頭ぬぐい液は、 ウイルス分離を目的に培養細胞(HEp-2、 Human Embryo Fibroblast、 MDCK、 VeroおよびHMV-II細胞)に接種された。その結果、 これらはMDCK細胞に接種後2日目ないし3日目に強いCPEを出現させた。症例1、 2についてはこの培養上清についてそのままを用い、 症例3、 4に関してはさらにMDCK細胞で継代した培養上清を材料に、 七面鳥赤血球を用いた赤血球凝集反応を行った。さらに、 国立感染症研究所より分与された2000/01および2001/02シーズン検査キットのフェレット抗血清を用い赤血球凝集阻止試験を行った。その結果、 上記4株はすべて抗A/Moscow/13/98(H1N1)、 抗A/New Caledonia/20/99(H1N1)、 抗A/Panama/2007/99(H3N2)および抗A/Sydney/5/97(H3N2)血清にはいずれもHI価10以下と反応性を示さなかったが、 抗B/Yamanashi(山梨)/166/98、 抗B/Shangdong(山東)/07/97、 抗B/Akita(秋田)/27/2001、 抗B/Johannesburg/5/99血清(いずれもホモHI価640、 40、 160、 320〜640)に対しては、 それぞれ<20〜40、 <20、 <20〜20、 40〜80という値を示した。この結果、 これらの分離ウイルスはすべてB型インフルエンザウイルスであると同定された。

考察:1)仙台市においては、 2001年10月5日患者検体からインフルエンザAH3型ウイルスが分離されているが(IASR Vol.22、 No.11参照)、 これまで、 これに続くA型インフルエンザウイルス分離はなされていなかった。その後仙台市ではパラインフルエンザ1型およびエンテロウイルスの小流行を思わせる両ウイルスの分離が相次いでいた(IASR Vol.22、 No.12参照)。今回の分離は、 症例1および2は整形外科疾患にて長期入院している患者であったため、 明らかに病院外から院内への持ち込みによるものと考えられ、 またその後の分離に関しても患者の発症日が症例1、 2に比較的近いことから、 仙台市あるいはその近郊においてB型インフルエンザ流行がすでに起きている可能性を示唆するものであった。なお、 A小児科医院の症例3および4についてはそれぞれ10日に採取した10件中の1件と11日に採取した5件中の1件であった。

一般的には、 B型インフルエンザの流行はシーズンの後半という印象がある。国立仙台病院ウイルスセンターのウイルス分離資料によれば、 過去16年間まで遡ってみても仙台市でこの時期にB型インフルエンザウイルスが分離されたことはない。しかし、 1985年の場合、 年明け早々B型ウイルスの分離が相次ぎ、 その後流行期を通してB型ウイルスの流行があった。また、 山形市での成績においても1988年に同様の傾向が見られており、 さらに、 1993、 1995年にはそれぞれ前年の11月、 12月にB型ウイルスが分離され、 年明けからB型の流行が始まり、 それがシーズンを通してインフルエンザ流行の半分以上を占めていた。よって、 今後B型の流行の動向には注意が必要と思われる。

2)今シーズンに至る以前、 非流行期に川崎市、 沖縄県および名古屋市からVictoria系統のB型インフルエンザウイルスの分離報告が相次いでいた。流行予測事業による血清疫学でもこの系統ウイルスに対する日本人の抗体保有率は極めて低いことがわかっている。このため今シーズンのB型ウイルスの動向が気になるところであるが、 これまでの我々の分離ウイルスに関しては、 4件すべて抗B/Akita(秋田)/27/2001血清とは反応していないことからVictoria系統ではないと判断された。しかし、 我々の赤血球凝集阻止試験の成績では、 分離株の抗原性がワクチン株のB/Johannesburg/5/99と抗原的に若干ずれているようにも見受けられ、 この件に関しては今後の感染研の解析に委ねたい。

3)病院外から院内への持ち込みによる病棟内での患者発生事例であった今回初発の症例1、 2は、 今後、 インフルエンザシーズンに向け、 病院あるいは老人施設等での持ち込み感染防止への努力、 院内サーベイランスおよび患者発見後の迅速・適切な対応の大切さを再確認させるものとなった。

4)症例3、 4に対してA小児科医院ではインフルエンザを疑ったものの、 インフルエンザに対する特異的抗ウイルス剤治療は行わなかった。それはインフルエンザの地域的な流行を示す情報がその時点でまだなかったことや、 患者が同医院を訪れた時点でいずれも発症から2、 3日たっており、 抗ウイルス薬が著効を現す投与時期を逸しているという判断からであり、 この判断を尊重したい。結果的にその後まもなく両患児とも軽快し、 良性の経過を示している。

5)インフルエンザ抗原簡易検出キットによる検査を試みた症例3については、 抗原検出は陰性であった。抗原簡易検出キットに関しては、 A型およびB型インフルエンザ診断用の製品が今シーズン数社から販売されている。ただし、 いずれの診断キットもB型インフルエンザウイルスに対する感度は低く、 とくに咽頭ぬぐい液を検体とした場合にそれが顕著になる傾向にある(ウイルス分離を基準とし、 検出率A社25%、 B社37%、 C社82%、 D社69%という成績が公表されている)。インフルエンザ抗原簡易検出キットを利用してインフルエンザ(とくにB型)の診断を行う際に、 注意を要すべき点であると思われる。

国立仙台病院ウイルスセンター
岡本道子 近江 彰 千葉ふみ子 伊藤洋子 西村秀一
国立仙台病院呼吸器内科 三木 祐
永井小児科医院 永井幸夫

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