炭疽の治療にはシプロフロキサシン(Ciprofloxacin)が推奨されている。日本国内ではシプロフロキサシン以外にも様々なニューキノロン系抗菌薬が発売されている。シプロフロキサシン以外のニューキノロン系抗菌薬の炭疽菌に対する抗菌作用を検討するために、 炭疽菌を用いて薬剤感受性試験を行った。薬剤感受性試験はEtestを用いてニューキノロン系抗菌薬6剤を含む22薬剤に対する感受性試験を行った。菌株は、 当研究所に保存してあった炭疽菌弱毒株3株を用いて検討した。結果は表の通りであった。
炭疽の治療に有効とされているシプロフロキサシンのMICは0.064〜0.125μg/mlであった。その他LevofloxacinもMIC=0.064〜0.125と低値であった。他のニューキノロン系抗菌薬では、 Norfloxacin、 Ofloxacin、 Sparfloxacin、 FleroxacinではMIC=0.25〜0.5と高い株が見られた。ペニシリン系抗菌薬はAmpicillin、 PenicillinGともにMICは低値であった。Aztreonam、 ST合剤および第3世代セフェムであるCefotaximeとCeftriaxoneには耐性であった。米国で生物テロに使われた炭疽菌の各薬剤に対するMICが報告されているが(1)、 その値は今回使用した菌とほぼ同じような値を示していた。
ニューキノロン低感受性菌は、 腸チフス・パラチフスの原因菌であるチフス菌・パラチフスA菌で治療上の問題となっている。チフス菌・パラチフスA菌のニューキノロン低感受性菌では、 各種ニューキノロン薬のMICは0.25〜0.5μg/mlを示し、 ニューキノロン薬の投与では治療ができないことが報告されている(2)。米国での炭疽菌のMICについてはシプロフロキサシンの値しか示されていないが、 わが国では他のニューキノロン薬が臨床上多く使用されている。今回検討した炭疽菌も一部のニューキノロン薬に対してはMICが0.25〜0.5μg/mlと高いものがあり、 低感受性を示すことが予想される。しかし、 MICが0.25〜0.5μg/mlの炭疽菌に対して、 生体内でニューキノロン薬は効果があるのか否かは、 現在のところデータがないので不明である。また、 今回は検討した株数が少ないため、 さらに多くの株を使用しての検討の必要がある。
参考文献
(1) Susceptibility testing of B. anthracis isolates. MMWR, Vol.50, No.42, p. 914
(2) 足立拓也 増田剛太 今村顕史 味澤 篤 根岸昌功 高山直秀 滝永和美 高野さかえ、 ニューキノロン低感受性腸チフスの2例、 感染症学雑誌2001,75巻、 48-52
(3) 坂本光男 相楽裕子、 ニューキノロン低感受性腸チフスの1例、 第49回日本感染症学会東日本地方会抄録2000, 51
国立感染症研究所細菌部 広瀬健二 田村和満 寺嶋 淳 渡辺治雄