手足口病と診断された患者の咽頭ぬぐい液から分離されたウイルスは、 既存の抗血清を用いた中和試験では同定不可能であったが、 ウイルス遺伝子の系統解析によってコクサッキーウイルスA群16型(CA16)と同定されたので、 その概要を報告する。
2001年10月19〜24日の期間に、 大阪市北部の1医療機関から手足口病と診断された3患者の各咽頭ぬぐい液が当研究所に搬入された。VeroおよびRD-18S細胞を用いてウイルス分離試験を行い、 Vero細胞においてエンテロウイルス(EV)様の細胞変性効果がすべての検体で認められたことから、 ウイルス分離陽性と判断した。分離ウイルスを同定するために、 抗EVプール血清(エンテロウイルスNT試薬「生研」およびEP95)、 奈良県衛生研究所から分与された抗CA10および抗CA16血清、 国立感染症研究所から分与された抗CA16および抗EV71血清を用いてウイルス中和試験を行ったが、 いずれの分離ウイルスも用いたすべての抗EV血清で中和されなかった。EV遺伝子の5’NTRからVP2の領域を特異的に増幅するプライマー(EVP2およびOL68-1)を用いてRT-PCRを行った結果、 すべての分離ウイルスにおいて約750bpの特異的フラグメントの増幅が認められ、 これらの分離ウイルスはEVであることが確認された。次にこれらの特異的に増幅された遺伝子中の約650bpの塩基配列を決定し、 このうちのVP4遺伝子をコードする領域を用いてN-J法によるEVの系統解析を行った。その結果、 これら3株のウイルスはいずれもCA16であることが確認された。今回分離されたCA16 3株間でのVP4遺伝子の塩基配列の相違は0〜1塩基であった。また、 これら3株と、 当研究所において1998年に分離された2株および2000年に分離された3株のCA16とのVP4遺伝子の塩基配列を比較すると、 1998年分離株との間で13〜16塩基、 および2000年分離株との間で5〜17塩基の相違が認められた。
過去3年間の当研究所におけるCA16の分離状況は、 1998年に5株、 1999年に0株および2000年に3株であり、 2001年は現在のところ今回の3株のみである。1998〜2000年までに当研究所で分離された各CA16株は、 上記抗CA16血清によって明瞭なウイルス中和反応を認めることができたが、 今回分離された3株のCA16は中和されなかった。また、 2000年に分離された3株のCA16のうち、 最後に分離された株は同年8月31日に採取された検体からのものであり、 今回分離された3株のCA16の検体採取時期とは1年以上の間隔があった。今後分離されるCA16株についても、 既存の抗CA16血清では中和されない可能性を考慮する必要があるものと思われた。
大阪市立環境科学研究所
久保英幸 入谷展弘 勢戸祥介 村上 司 春木孝祐
医療法人武内小児科 武内克郎