コクシジオイデス症は、 米国カリフォルニア州〜アリゾナ州〜ニューメキシコ州を中心とした地域に発生する真菌症で、 その病原体であるCoccidioides immitis は、 半乾燥地帯の地中に生息し、 条件が整うと地上に胞子(分生子)を放出する。胞子は風に乗って広範囲に拡散し、 経気道的にヒトに感染する。人から人への感染はほとんど無いが、 菌の浮遊している地域に滞在していると、 多数の人間が同時に感染し、 発病する可能性が高い。
2001年10月に米国カリフォルニア州ベーカーズフィールド郊外のローストヒルズにおいて世界模型飛行機選手権大会が行なわれた。世界30国から300名以上が参加したが、 大会後、 帰国した参加者の間にコクシジオイデス症の多発が認められた。患者は現時点で、 確診例2名(英国人、 フィンランド人各1名、 本月報Vol.23、 No.2、 p.12外国情報参照)、 疑診例2名(オーストラリア人、 ニュージーランド人各1名)であるが、 現在、 各国で調査が進んでおり、 今後増加する可能性がある。競技会が行われたベーカーズフィールド周辺は、 カリフォルニアの中でもコクシジオイデス症の多発地帯として知られている。参加者は強風の中、 屋外の砂地で連日競技を行っていたものと推測され、 これが集団発生に結びついたものと思われる。また、 現地にテントを張って寝泊まりしていた参加者も多く、 暴露をさらに深刻にした可能性が指摘されている。
わが国へはWHO、 CDCを通して国立感染症研究所に連絡があったため、 日本人参加者に対する素早い対応が可能となった。日本人は全国各地から20名が参加していることが明らかになったため、 ただちに厚生労働省による「輸入真菌症など真菌症の診断・治療法の開発と発生動向調査に関する研究班」(主任研究員:国立感染症研究所・上原至雅)が、 班員である千葉大学真菌医学研究センターを中心として追跡調査を開始した。幸い、 現時点では、 明らかな感染例は認められていないが、 今後、 慎重な調査・追跡が必要と思われる。
わが国では、 コクシジオイデス症を初めとする輸入真菌症の増加が繰り返し報告されているものの、 医療体制は十分整っているとはいえない。とくに今回のように、 多数の対象者が全国に居住している場合、 各地に、 輸入真菌症に対するある程度以上の知識を持ち、 対応しうる医療機関、 検査機関を組織的に配置しておくことが必要となるが、 現状ではコクシジオイデス症に十分な知識を持つ臨床医、 検査技師は極めて少なく、 また菌学的、 血清学的検査を行える施設も限定されている。今回の事例により、 これらの問題点が浮き彫りとなった。
輸入真菌症に対抗するためには、 医療従事者(医師、 検査技師)の基礎教育とともに、 各地に拠点となる機関を設け、 中心となるレファレンスセンターと協力して対応する体制が必要であることを改めて示した事例と言えよう。
千葉大学真菌医学研究センター 亀井克彦