輸入真菌症における問題点

(Vol.23 p 59-60)

1991年以降の輸入真菌症症例の増加が著しい(本号特集参照)。これは、 第一に海外旅行、 出張、 あるいは海外からわが国への訪問・滞在など、 交流の増加によるものと推測される。その中でもコクシジオイデス症の増加が目立つが、 実際に、 流行地であるカリフォルニア州やアリゾナ州でも近年は増加傾向にあり、 特に後者では過去10年間に患者数が約11倍に増加し、 2000年における米国アリゾナ州の感染者数は、 2,100名以上に達したと報告されている()。カリフォルニア州やアリゾナ州はいずれも日本との往来が特に多いことから、 今後わが国でもコクシジオイデス症の症例がさらに増加する可能性が懸念される。

ヒストプラスマ症、 パラコクシジオイデス症も同様に急増している。これは主に海外交流の増加によるものと考えられるが、 ヒストプラスマ症では、 特に海外渡航歴のない患者がめだっており、 起因菌であるH. capsulatum がわが国にも生息している可能性を考えておく必要があろう。この問題に関しては、 現在検討を進めている。また、 臨床症状、 病理所見、 流行地域ともにヒストプラスマ症に類似しているマルネッフェイ型ペニシリウム症との鑑別も重要である。

輸入真菌症の実数の把握はきわめてむずかしい。1999年に制定された感染症法によりコクシジオイデス症は全数把握の4類感染症に指定され報告義務が生じたが、 これまでのところ実際の報告率は必ずしも高くない。さらに、 ヒストプラスマ症、 パラコクシジオイデス症などに至っては、 報告の必要がないため、 実数の把握は、 不可能と言ってもよい。さらには現在の日本の医学教育における輸入真菌症の扱い、 一般臨床医の認識の低さを考えると、 把握された症例は、 むしろ氷山の一角であり、 確定診断に至らず埋もれている輸入真菌症例が相当数隠れている可能性も考えられる。現在、 輸入真菌症が抱えている問題点は多岐にわたるが、 主な点としては、 1)実数把握が困難であり、 その一方で患者数の増加が予想されること、 2)上記4種類以外に、 新しい輸入真菌症の上陸の可能性があること、 さらに、 3)健康な人で感染する強い感染力を持っていること、 4)本症が疑われても診断・治療に関して相談できる機関が存在しない、 などがある。本疾患群の多くが健常人にも感染しうる強い病原性を持った菌によるものであることを考えると、 わが国でも社会全体がこの問題を真剣に考えるべき時期に来ているといえる。具体的には、 現在コクシジオイデス症のみに限定されている報告義務をヒストプラスマ症を含めたより広範な輸入真菌症へと広げていくことにより、 実数把握の精度と一般認識とを高めること、 さらに輸入真菌症の診断、 治療などを援助するレファレンスセンターの設立により輸入真菌症に対する体制を確立することが急務となっている。

千葉大学真菌医学研究センター 亀井克彦

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