2002年2月10日に、 北ロンドンに居住するバングラデシュ人の2歳男児(英国生まれ)の咽頭ぬぐい液から毒素産生性ジフテリア菌グラビス型が分離された。この男児にはワクチン接種歴があった。患者は2月6日に熱性痙攣で入院したが、 翌日には上気道感染症の診断により退院となった。咽頭ぬぐい液は、 院内検査のルーティンとしてCorynebacterium 属菌をスクリーニングするために採られたものであった。患者のその後の経過は良く、 重症のジフテリアには至らなかった。2月8日からクラリスロマイシンによる14日間の抗菌剤投与が始まった。
患者との濃厚な接触があったものは、 家族12名、 小児科病棟の子供3名とスタッフ1名であった。患者と家族には、 海外渡航歴や海外からの帰国者との接触歴は無かった。家族および接触のある病院関係者からは咽頭ぬぐい液が採取され、 エリスロマイシンが処方されるとともに、 ワクチンの追加接種が行われた。家族は9人の大人と3人の子供(3歳、 10歳、 12歳)であり、 子供は全員ワクチン接種規定回数を完了していた。また子供は全員、 抗菌剤による治療が完了するまでの3日間学校を欠席した。
現在、 分子疫学的に遺伝子型を検討中であるが、 ジフテリア菌株の発生源に関する解析が可能となるかもしれない。最近英国で分離された毒素産生性ジフテリア菌は、 1997年にバルチック海クルーズに参加した婦人から得られたものであり、 リボタイプによる検討では、 その当時旧ソ連の独立国やバルト海地区で流行していたものと区別できなかったということである。
(CDSC、 CDR、 12、 No.7、 2002)