感染性胃腸炎患者からのパレコウイルス1型および2型の分離−大阪市

(Vol.23 p 64-64)

2001年10〜11月に、 大阪市感染症サーベイランス検査事業に供与された感染性胃腸炎患者の便検体からパレコウイルス1型(Human parechovirus 1; HPeV-1、 formerly Human echovirus 22; E22)およびパレコウイルス2型(Human parechovirus 2; HPeV-2、 forme-rly Human echovirus 23; E23)を分離した。今回の分離ウイルスの同定は遺伝子学的解析法を用いて行ったので、 その概要を報告する。

患者は、 2001年10〜11月の期間に下痢を主症状として本市定点医療機関を受診した大阪市北東部およびその隣接市に居住する0〜4歳の計4名の乳幼児で、 いずれも感染性胃腸炎と診断された。このうちの1名の患者(0歳児)は、 右下肢不全麻痺の症状も認められた。

これら4名の患者から採取された便検体乳剤をVeroおよびRD-18S細胞に接種した結果、 すべての検体においてVero細胞のみにエンテロウイルス(EV)様の細胞変性効果が認められ、 ウイルス分離陽性と判定した。分離ウイルスのVero細胞における感染力価は3〜5log10 TCID50/0.1mlであった。抗EVプール血清(デンカ生研製およびEP95)を用いた中和試験では、 いずれの分離ウイルスも難中和性を示し、 また、 抗アデノウイルス単味血清(デンカ生研製)を用いた中和試験においても中和は成立しなかった。また、 EVのVP4 領域前後を特異的に増幅するプライマー(EVP2およびOL68-1)およびVP1 から2C領域を特異的に増幅するプライマー(Caro et al., J. Gen. Virol. 2001)を用いたRT-PCRを行ったが、 特異的フラグメントの増幅は認められなかった。電子顕微鏡によるウイルス粒子の形態観察では、 すべての分離ウイルス検体においてEV様の粒子が認められた。

次に、 HPeVに特異的なプライマー(E23P1およびHPeV-N1)を用いてRT-PCRを行った結果、 すべての分離ウイルスで約810bpの特異的フラグメントの増幅が認められ、 これらの分離ウイルスはHPeVであることが明らかとなった。HPeVの特異的増幅遺伝子のうちの約600bpの塩基配列をダイレクトシークエンス法にて決定し、 各ウイルスの塩基配列に対してBLAST2 search (http://blast.genome.ad.jp/)を行い、 HPeVの型別を試みた。分離されたHPeV 4株のうち、 2株がHPeV-1に、 残りの2株はHPeV-2に最も相同性の高いことが示された。また、 これら4株のHPeVに対して、 市販の抗E22 単味血清(デンカ生研)を用いた中和試験を行った結果、 HPeV-1(E22)であることが示唆された2株において中和は成立したが、 HPeV-2(E23)であることが示唆された2株の中和は不成立であった。

HPeV-2の分離報告は非常に少なく、 特に1987〜1999年における国内での検出報告はなかった。2000年には3株、 2001年には7月に1株の検出が報告されており(http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/virus-k.html)、 本市の報告はこれらに次ぐものである。今回のHPeV-1およびHPeV-2の同定は分離ウイルスを遺伝子学的に解析することによって行われたが、 本解析法は分離ウイルス、 特にEVを迅速かつ的確に同定できる点においても高い評価を得つつある。中和試験不成立株の同定の場合を含めて、 遺伝子学的解析法を用いたEVの血清型別の有用性は今後さらに増大するものと思われる。

最後に、 HPeVに対する特異的プライマーの塩基配列をご教示下さいました愛知県衛生研究所微生物部の伊藤 雅先生に深謝いたします。

大阪市立環境科学研究所
久保英幸 入谷展弘 勢戸祥介 村上 司 春木孝祐

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