長浜保健所管内A町のB飲食店において、 2001年8月5日に行われた地元消防団関係者の懇親会に参加した3人が腹痛、 下痢等の食中毒様症状を呈している旨、 8月7日にC診療所から届け出があった。保健所において調査したところ、 参加者31人中12人が発症していることが判明した。発症者の共通食は、 B飲食店で食べた会席料理の他にはないことから、 本事例はB飲食店を原因施設とする食中毒事件と断定された。また、 その後の調査により、 8月3日〜6日にB飲食店で調理された幕の内弁当を食べた8グループ97人中44人が発症していること、 さらに8月6日にA町で開催されたスポーツ大会に参加していた大阪府および和歌山県の中学生およびその引率者38人中33人が、 夕食にB飲食店で調理された仕出し料理を食べて発症していることが判明した。したがって本事例は、 8月3日〜6日にB飲食店で調理された会席料理、 幕の内弁当および仕出し料理が原因食品と断定され、 最終的に摂食者数は166人、 発症者数は89人(発症率54%)となった。主な症状は、 下痢(92%)、 腹痛(78%)、 倦怠感(69%)、 発熱(49%、 平均38.3℃)、 悪寒(45%)等で、 潜伏時間は8〜156時間(平均51時間27分)であった。
病因物質の究明のため、 発症者便8件、 調理従事者便3件、 食品残品8件、 井戸水1件、 うなぎいけすの水2件および施設ふきとり8件について細菌検査を行ったところ、 発症者便8検体および調理従事者便3検体からSalmonella Saintpaul(O4:e,h:1,2)が検出され、 本菌が病因物質と断定された。一方、 喫食残品からは食中毒起因菌は検出されず、 喫食調査によっても原因食品は特定されなかった。なお、 医療機関等においても本事例にかかる発症者便の検査を行っており、 その結果を含めると発症者15人からS . Saintpaulが検出された。一方、 うなぎいけすの水2件からはS . Newport(O8:e,h:1,2)が検出された(表1)。
分離したS . Saintpaul 12株(発症者等便由来9株および従事者便由来3株)について、 薬剤感受性試験およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った。12薬剤(ABPC、 CP、 TC、 SM、 KM、 GM、 CTX、 TMP、 ST、 NA、 CPFX、 FOM)についてK-B法により薬剤感受性試験を行った結果、 どの薬剤に対しても耐性はみられなかった。また、 制限酵素Bln I消化によるPFGEを行ったところ、 すべての株において泳動像がスメア状となった。そこで、 泳動に用いるTBEバッファーにチオ尿素を50μMの濃度で加え、 再度PFGEを行ったところ、 すべての株が同一のPFGEパターンを示すことが確認された1,2)(図1)。
以上の結果から、 発症者等便および従事者便のS . Saintpaulは同一由来であることが示唆された。
本事例では、 調理従事者全員が健康保菌者であったが、 発生要因は明確にはされなかった。食中毒の予防および拡大防止のためには、 従事者の健康管理および衛生教育、 施設の衛生管理の徹底が重要であると考えられた。
最後に本事例疫学調査は、 長浜保健所生活衛生課によって行われたことを申し添える。
参考文献
1)U. Römling and B. Tummler, J. Clin. Microbiol., 38: 464-465, 2000
2)J.E. Corkill, et al., J. Clin. Microbiol., 38: 2791-2792, 2000
滋賀県長浜保健所 児玉弘美 橋本信代 池田伸一 安田和彦
滋賀県立衛生環境センター 脇坂祐子 林 賢一