赤血球凝集抑制(HI)試験では同定困難なB型インフルエンザウイルスの分離−石川県

(Vol.23 p 60-60)

2002(平成14)年1月28日、 石川県河北郡の1小学校で集団かぜが発生した。この日の患者数は全校児童419人のうちの105人であったが、 患者が多かった4年生の1クラスの5人についてウイルス検査のための咽頭ぬぐい液を採取した。

5人の患者の主な症状は、 咳などの上気道炎症状が共通していたほか、 発熱を伴った者(4人、 37.8℃〜40.3℃)や腹痛・下痢などを伴った者(3人)がみられた。

咽頭ぬぐい液からのウイルス分離検査はトリプシン添加MDCK細胞により実施したが、 検体接種後3〜4日目で5人中3人の検体から、 明らかな細胞変性効果とともに培養上清中にモルモット赤血球凝集能を有するウイルスが分離された。分離ウイルスの同定は、 これを抗原として、 常法に従い国立感染症研究所(感染研)分与の感染フェレット抗血清を用いて、 HI試験により実施した。その結果、 2001/02シーズン用抗血清A/Moscow/13/98(H1N1)、 A/New Caledonia/20/99(H1N1)、 A/Panama/2007/99(H3N2)、 に対してHI価はいずれも<10を示した(ホモ価は順に640、 160、 640)。またB/Akita(秋田)/27/2001、 B/Johannesburg/5/99に対しても<10であった(ホモ価は40、 80)。

そこで、 ウイルスが分離された感染MDCK細胞を用いて、 蛍光抗体法による同定を試みたところ、 B型インフルエンザウイルスであることが明らかとなった。また培養上清を用いたインフルエンザウイルス検出用簡易キットによる検査(イムノクロマト法)でもB型と判定された。

以上から本事例の分離株は3株ともB型ウイルスであることが明らかにできたが、 他に昨シーズン以前に感染研から分与されたいくつかのB型ウイルスに対する抗血清とのHI試験も実施した。その結果、 B/Yamanashi(山梨)/166/98、 B/Shangdong(山東)/7/97、 B/Mie(三重)/1/93、 B/Aichi(愛知)/5/88、 B/Bangkok/163/90、 B/Guangdong(広東)/5/94に対しいずれもHI価は<10であった(ホモ価は順に1,280、 80、 160、 未測定、 160、 160)。

今回の分離株がHIにより同定困難であった原因には、 いくつかのことが考えられるが、 一つには昨シーズン末に石川県で分離されたB型ウイルスはB/Yamanashi/166/98に対する抗血清との反応がHI価で<10〜10と低い株であった。これがさらに変異し今シーズン出現した可能性がある。また、 同定に使用したB/Akita/27/2001の抗血清のホモ価が40と低値であったことも一因かも知れない。

いずれにしても、 今回の分離株は上記のような性状から、 その系統(山形またはVictoria)さえ明らかではないが、 従来のB型株とは大きく変異している可能性も考えられ、 今後もその動向を監視して行きたい。

石川県保健環境センター
尾西 一 米澤由美子 大矢英紀 芹川俊彦 西野久仁夫
石川中央保健所 菊地修一 川島ひろ子

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