東京都におけるAIDS患者・HIV感染者の動向と今後の施策

(Vol.23 p 112-114)

 1.AIDS患者・HIV感染者の動向

感染症法に基づいて、 2001(平成13)年に東京都に報告されたAIDS患者数は102件、 HIV感染者数は274件、 合計376件となっており、 年間の届け出数として過去最多となった。1999(平成11)年から2000(平成12)年にかけては、 わずかながら減少が見られた後の「急増」であった。今後の爆発的急増の兆しではないのか?との懸念も全くの杞憂とは言えず、 今後の動向からは目が離せない。感染者が増加しているのみならず、 患者の届け出も増加している。これは、 感染の段階できちんと医療に結びつけることができていないということで、 検査相談体制や検査への動機付けをさらに充実しなければならない(図1)。

2001年の国籍・性別報告数の内訳では、 感染者の81%、 患者の71%を日本人男性が占めている。経年で見ても、 日本人男性の数の増加が目立つ(図2)。推定感染経路別では、 同性間性的接触によるものが感染者の64%、 患者の40%を占めている。同性間性的接触によるものは、 1998(平成10)年までは他の経路によるものとほぼ同じ傾向で増加しているが、 2000年、 2001年は飛びぬけて増えていることが注目される(図3)。推定感染地別では、 日本人感染者の87%、 患者の78%が国内で感染している。外国人も含めた経年変化を見ても、 国内での感染の増加が目立っている(図4)。感染者の年齢別では、 20代に最大のピークがあり、 20代と30代で全体の73%を占めている。患者では20代は少なく、 ピークが30代にずれ込んでいる(図5)。

都・区保健所および南新宿検査相談室でのHIV抗体検査数についてみると、 1997(平成9)年以降、 毎年微増傾向で推移しているが、 2001年は前年を大きく上回った。これは、 厚生労働省通知により保健所でHIV抗体検査と同時にHCV抗体検査を実施したことの影響によるところが大きいと思われる(図6)。2001年に都・区保健所および南新宿検査相談室でHIV抗体検査を受け、 結果が陽性であった人は86人にのぼっている。陽性率は全体で0.48%であるが、 南新宿検査相談室のみをみると0.89%となり、 年ごとに多少の高低はあるものの、 1%に迫る勢いで上昇していることがわかる(表1)。なお、 抗体検査の陽性率は今年初めて公表した。

 2.今後の施策

東京都では、 1992(平成4)年に「東京都エイズ対策基本方針」を定めている。この中で、 「感染拡大の防止」、 「医療の確保と感染者への支援」、 「偏見のない社会づくり」という3つの目標のもとに、 「普及・啓発活動の強化」、 「相談・検診体制の充実」、 「医療体制の整備」、 「療養支援体制の確保」、 「調査・研究の充実」という5つの施策の柱をたて、 これに基づき毎年度事業実施計画を策定して事業を展開している。2002(平成14)年度は上記のような患者・感染者の動向をふまえ、 特に、 青少年と男性同性愛者に向けた効果的な予防対策の実施に力を入れて取り組む計画である。

青少年を主な対象として昨年度から取り組んでいる事業として、 「東京都エイズ・ピア・エデュケーション事業」がある。ピア(Peer)とは仲間という意味で、 同じ年代で価値観をともにできる者同士が、 エイズに関する知識や「性・命の大切さ」を伝え、 考えていこうとする活動である。具体的には、 ボランティアに意欲のある若者を募集し、 研修を受けてもらい、 その若者がピア・エデュケーターとしてチームを組み、 学校等を訪れてエデュケーションを実施する。標準的なプログラムは、 「それぞれの意見や価値観を大切にしよう」という基本ルールのもとに、 HIV・AIDSに関する基本知識や患者・感染者の状況のほか、 「No」と言ってもいいんだよ(自己決定の重要性)、 ジェンダーと既成概念、 コンドームの取り扱いの注意と実技などの内容を含んでいる。これは教室型のピア・エデュケーションであるが、 今後はアウトリーチ型、 普及拡大型等いろいろなかたちのピア・エデュケーションが、 様々な実施主体によって地域で展開されるよう援助していきたいとも考えている。

男性同性愛者に向けては、 雑誌への情報掲載、 街頭やイベント会場でのアウトリーチ活動などの事業を実施しているが、 新たな患者・感染者の届け出状況を見ると、 十分な対策とはなっていないようである。感染防御への行動を促すため、 さらにきめ細やかで適切な情報の提供や相談援助体制が必要であると考えている。

新たな感染が少しでも減少し、 また、 患者・感染者が安心して生活できるよう、 このほか、 抗体検査体制の充実や医療体制の整備など、 多くの課題に着実に取り組んでいきたいと思っている。

東京都健康局医療サービス部副参事(エイズ対策担当) 横山康子

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