岡山市保健所におけるAIDS対策

(Vol.23 p 114-116)

 1.岡山県における患者数の推移

人口180万人の岡山県では、 図1のようなHIV/AIDS感染者・患者の報告がある。岡山市分としては公表していないが、 このうちかなりの部分を占める。また、 市民一般で3%、 STD(性感染症)患者で9%というHIV抗体検査受検率を見ると、 感染を自認していない市民が多いと推定される。しかし、 人口63万人の岡山市における報告数は少なく、 市民の関心も大きな増加は見られない。罹患率が少ない地方の中核都市において、 HIV/AIDS対策の組み立てと優先課題が問われている。

岡山市保健所の行うエイズ対策の概要を図2に示した。今回はこのうち、 さまざまな団体との協同や、 団体が主体的に行う活動への支援を中心に述べ、 計画的実施に不可欠な現状把握のための調査についても若干触れたい。NGOなど市民自身が行う活動の社会に対する貢献は大きく、 ますます重要となってくると予測される。

 2.HIV医療体制への支援

感染者、 患者が少ないからこそ受診先を確保しHIV診療体制を整備する必要がある。また、 疾患対策の基盤でもある。1996年、 HIV診療拠点病院が岡山県内に6カ所、 うち岡山市内に4カ所公表された。初めにも紹介したように受診患者数は少なく、 診療経験の蓄積と情報交換が必要であった。また、 ひとつの拠点病院に歯科・精神科などすべての診療科がそろっているわけではない。拠点病院整備は県の事業と位置づけられていたが、 岡山市では県と協力して1996年から拠点病院を対象とした研修や会議を持つことで、 情報交換と診療協力の場を設定した。また、 1997年に医科・歯科医療機関を対象としたHIV/AIDS診療体制等に関する調査を行った。HIV/AIDS診療経験のある医師が37名おり、 各科ごとに診療体制があるとの回答があった。このような診療や研修希望などの現状の共有化を図った。

拠点病院における診療や看護情報の交換に大きく寄与したのは、 岡山HIV診療ネットワークである。2つの拠点病院が中心となって、 感染告知のロールプレイやケース検討を定期的に行い、 治療・服薬援助や精神的ケアまで幅広い内容の講演会も行っている。岡山市保健所では、 1997年から岡山県内拠点病院の医療従事者とHIV感染者・患者ケアに携わるNGOを対象に宿泊研修を毎年行い、 技術交流とネットワーク強化の場を提供している。この研修は、 岡山HIV診療ネットワークや拠点病院の多大な協力によって運営している。

 3.現状の把握

市民のAIDSへの関心が高まらない現状での感染拡大予防策は、 方向性を見つけるのが困難である。1995年岡山市民から200名を無作為抽出し、 性行動調査を行った。1年間に複数と性交したとの回答は、 20代で最も高く、 全体でも男22%、 女15%であった。この割合は、 英国、 フランスより男女とも高く、 性交による感染拡大リスクは充分あることが確認された。2001年にはちょうど発足した岡山性感染症研究会や医師会の協力を得て性感染症の現状調査を行った。STD指導や、 HIV検査勧奨の余地が大きいこと、 女性STD患者の60%が過去1年の性交相手数が1人であることを医療機関などに還元できた。しかし、 これらの調査結果はそれほど長くは利用できない。情報を利用する立場になれば、 身近な岡山市の状況であったとしても5年前の情報は、 やはり古い。サーベイ(調査)からサーベイランス(動向調査)による継続的な現状把握や施策評価が求められるようになっている。

 4.感染拡大の防止

岡山市保健所では世界エイズデーにおけるイベントを重要な施策として、 若者を主対象に写真展、 コンサートなどを行ってきた。1999年からは、 岡山大学祭において「世界エイズデー in 岡山」と銘打ったイベントとしている。実施に当たっては、 地域のNGOである岡山HIV診療ネットワーク、 岡山市愛育委員協議会、 岡山南ロータリークラブ地域社会共同隊や、 NPO法人「HIVと人権・情報センター」の協力を得ている。情報提供を一歩進め、 さまざまなコミュニティーの参画を目指したものである。表1および表2に「世界エイズデー in 岡山」の近年の参加数推移とイベント内容を示した。

中心的役割を果たしているのは岡山大学学生であり、 当日スタッフ61名中22名と、 保健所職員11名の倍近く参加し、 最も多いグループである。中心となるのは、 教育学部と医学部の学生であり、 5月からイベントを実施した11月までの間に21回打ち合わせ会を行った。前半はAIDSや性についての勉強会を中心に、 後半はイベントの内容討議を中心に進行した。9月からは、 司会・書記役を、 学生スタッフが持ち回りで担当したほか、 自分達なりの結論がまとまるまで議論を続ける等、 学生の自主性や意欲を促す運営とした。本事業は、 参加者への働きかけとともにピア(仲間)リーダーの養成も大切な目的としている。

昨年はイベント終了後も学生グループは解散せず、 自主サークルに発展した。また、 教育学部の学生は、 この参加型学習イベントの評価を卒業論文のテーマとした。大学教育との関連も広がりつつある。この自主サークルA2(AIDS activists)にはまだ大きな実績はないが、 AIDS出前講座に他の講師と同行し、 一部を分担したり、 AIDS教育学会で自分たちの活動紹介を行ったりしている。海外でのAIDS関連活動への関心も持っており、 2003年に神戸で行われる第7回アジア太平洋国際エイズ会議に参加しようとはりきっている。

図3は、 エイズ・ピア・エデュケーションにおける若者の参加の段階を模式的に表したものである。また、 表3に示したように、 市民活動への支援理念は、 若者のみでなく、 すべての市民活動に対して共通すると考える。A2は、 ゲイコミュニティーへの関心を持ち講演会を企画している。新聞、 ラジオなど地方のマスメディアはこのような動きを報道しており、 小さくはあるが、 若者コミュニティーが他のコミュニティーへも波及し、 広くコミュニティー参画を促進する契機となるのではないかと期待している。

岡山市保健所 中瀬克己

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