発酵筋子関連ボツリヌス症集団発生、 2001年−カナダ

(Vol.23 p 123-123)

カナダではボツリヌス食中毒は稀な疾患であるが、 多くの場合罹患するのは先住民あるいはイヌイットである。最近の症例の多くは僻地で起こっており、 サケの卵(産み落とされる前のもので、 「はらこ」と呼ばれる)や海生哺乳類の肉を原料とした発酵食品などによる。発酵したサケのはらこ(以下、 発酵筋子)は、 カナダ西海岸の先住民たちのごちそうであり、 高齢者により好まれる傾向がある。伝統的な製法では、 溝を掘って草を敷き、 そこにサケのはらこをのせて草やコケで覆い、 冷涼にしながら2〜3日発酵させ、 その後2〜3日で食べきってしまう。ところが最近ではプラスチックの容器やガラスびんなどの密閉容器で発酵が行なわれることが多くなり、 その結果、 嫌気性環境で発育するボツリヌス菌にとって好適な条件が整う可能性が高くなる。

事例1:73歳女性とその息子(50歳)。自家製の発酵筋子(ガラスびんを用いて製造)を喫食した翌日発症。抗毒素治療と呼吸管理にもかかわらず女性は心停止に至る。いったんは回復したが長期入院の末、 心停止の合併症により死亡。息子は2〜3日間の呼吸管理ののち完全に回復。マウスを用いたバイオアッセイにより、 両患者の血液からボツリヌスE型毒素を検出。原因食品と推定された発酵筋子からはE型ボツリヌス菌および毒素を検出。

事例2:51歳と49歳の姉妹。遠隔地のフライフィッシングキャンプで発酵筋子(密閉プラスチック容器で何日間も発酵させたもの)を喫食。6時間後嘔吐、 下痢、 痙攣を示し来院。来院時には神経症状なし。1人は翌日症状が悪化し歩行困難を示したため、 2人とも抗毒素の投与を受けた。症状の重い1人は呼吸管理を必要とし、 退院後8週経過時(現在)加療中。症状の重い1人の血中からボツリヌスE型毒素が、 原因食品と推定された発酵筋子からE型ボツリヌス菌および毒素がそれぞれ検出された。

ボツリヌスはカナダの先住民およびイヌイットの間では古くから知られている。1919〜1973年までの間に発生した62件のうち、 3分の2がこれらの人々の間で発生したものであった。最も多い原因食品は発酵筋子、 その次が自家製スモークサーモンであった。CDC では「食品の伝統的製法を改変して手間を省こうとすると、 ボツリヌス食中毒発生の危険が劇的に増大することがある。ただし、 伝統的製法を守っていれば必ず安全だというわけではない」というメッセージによるキャンペーンを行っている。

(Canada CDR、 28-6、 2002)

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る