大アサリの喫食を原因とするノーウォーク様ウイルスとA型肝炎ウイルスによる食中毒事例−浜松市

(Vol.23 p 119-120)

大アサリ喫食によりノーウォーク様ウイルス(NLV)の食中毒が発生し、 約1カ月後に同グループからA型肝炎の患者が発生したので、 その概要を報告する。

2001(平成13)年12月11日に浜松市内の中国料理店で喫食した1グループ57名中22名が、 翌12日から下痢・嘔吐・発熱等の食中毒症状を呈した。検査の結果、 患者16名中4名の便がEIA法(デンカ生研)でNLV陽性となった。その4名の便について厚生労働省通知の方法に従ってRT-PCR法とマイクロプレート・ハイブリダイゼーション法を実施したところ、 4検体ともNLV genogroupI(GI)とII(GII)の両方が検出された。NLV検出のリアルタイムPCR法では、 4名すべての便からNLV 陽性(3名はGIとGII、 1名はGIIのみ陽性)となり、 2.2×105 〜 6.3×108 copy/gのNLV遺伝子が検出された。従業員5名の便についても、 上記の方法でRT-PCRを実施したがNLVは検出されなかった。また、 患者便、 従業員便、 および施設のふきとり検体について食中毒細菌を検索したが、 ふきとり検体からセレウス菌が検出された以外には病原性細菌は見出されなかった。

疫学調査の結果、 患者グループは大アサリ(ウチムラサキガイ)の唐辛子蒸しを喫食しており、 原材料である冷凍大アサリの同一ロットについて、 上記の方法に従ってRT-PCR法とマイクロプレート・ハイブリダイゼーション法を実施したところ、 NLV GIとGIIの両方が検出された。患者便と大アサリから検出されたNLVのシーケンスは現在実施中である。大アサリからは、 セレウス菌が検出された以外には病原性細菌は見出されなかった。また、 他の食材や患者の残食は無かったため検査できなかった。

NLV の食中毒発生から約1カ月後の2002(平成14)年1月11日〜16日にかけて、 上記のグループ中4名がA型肝炎を発症した。A型肝炎ウイルス(HAV)検出のリアルタイムPCR法の結果、 4名すべての便から 1.5×108 〜 3.7×109 copy/gのHAV遺伝子が検出された。また、 患者4名はすべてHAVに対する血清中のIgM抗体陽性であった。NLVが検出された大アサリについてHAVのRT-PCR法を実施したところ陽性となったため、 患者便分離株とともにPCRダイレクトシーケンス法を実施した。その結果、 大アサリと患者からの分離株はすべてgenotype 1Aとなり、 解析した168塩基について95%以上の相同性が認められた。

患者グループは上記料理店以外には共通喫食歴が無く、 A型肝炎の発症も同時期であり、 同一ロットの食材からウイルスが検出されたことから、 本事例をNLVとHAVの2種類のウイルスに汚染された大アサリが原因で発生した食中毒であると確定した。患者が喫食した大アサリは蒸し料理として提供されたものであるが、 加熱不足により比較的耐熱性のNLVとHAVが不活化されなかったと推測された。また、 この大アサリは中国から輸入されており、 流通等については現在調査中である。

本事例と同時期に市内で1名のA型肝炎患者の発生があり、 調査した結果、 上記グループの2日前に同じ中国料理店で大アサリを喫食していることが判明した。検査の結果、 リアルタイムPCR法で便から 2.7×105 copy/gのHAV遺伝子が検出された。さらに、 PCRダイレクトシーケンス法によりgenotype 1Aと分類され、 上記グループから分離された株の1つと168塩基が一致した。従って、 この患者についても大アサリの喫食が原因である可能性が高いと考えられるが、 2001年12月〜2002年1月初旬にかけて生カキ等を複数回喫食していることから、 大アサリが原因であるとは確定できなかった。

A型肝炎は潜伏期間が長いため、 感染源の特定がしばしば困難である。本事例は先にNLVの食中毒が発生した時点で原因食材が保存されており、 HAVを検出することができたため感染源が特定された稀な事例であると思われる。東南アジア地域は依然としてA型肝炎ウイルスの濃厚汚染地域であり、 海外渡航歴の無い人がA型肝炎を発症した際には、 輸入魚介類の喫食調査が必要であるといえる。

浜松市保健環境研究所  古田敏彦
浜松市保健所食品衛生課 竹内寛行 東谷市郎
国立感染症研究所    西尾 治

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