2002(平成14)年2月、 満期・正常分娩で出生した男児。母体に感染徴候を認めず。黄疸のために行った光線療法時に38℃台の一過性の発熱を認めたが、 それ以外に特記すべきことなく産科を退院した。産後の母親の健康状態は良好であった。
男児は日齢7には38℃台の発熱を認めたが、 すぐに解熱し、 哺乳力の低下もなかった。日齢8の朝に39℃の発熱、 下顎呼吸に気付かれ、 医療機関受診。痙攣出現しショック状態となり、 同日昼に新生児集中治療室に救急搬送された。入院時、 痛み刺激にも反応が弱く、 全身蒼白。鼻部表皮に壊死を思わせる所見を認めた。血圧60/36。心拍数200/分。
検査所見:白血球数3,700/μl、 血小板6,000/μl、 CRP 19mg/dl。凝固系:PT、 APTTは延長しFDPは140.9μg/mlと高値。髄液細胞数7,824/3。
感染によるSIRS(全身性炎症反応症候群)で敗血症性ショック、 ARDS(急性呼吸促迫症候群)、 DIC(播種性血管内凝固症候群)を発症したものとして人工呼吸管理下に、 抗菌薬(PAPM+ABPC)、 抗痙攣剤、 強心利尿剤などで強力な治療を行ったが、 入院翌朝(日齢9)に死亡するという急激な経過をたどった。
気管吸引物、 髄液、 血液の培養よりA群溶レン菌が検出されたことにより、 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断で4類感染症として保健所に届けられた。
検査材料:血液、 髄液、 鼻腔、 気管吸引物から分離され、 A群溶レン菌と同定された菌株の検査を行った。詳細な検査はブロックのレファレンスセンターである福島県衛生研究所と国立感染症研究所で実施した。
結果:4検体の結果はすべて同一であった。感受性試験はペニシリン系、 マクロライド系、 セフェム系等、 実施したすべての薬剤に感受性であった。Lancefield血清型はA群で、 T血清、 M血清型別はそれぞれT1、 M1であった。M蛋白をコ−ドするemm 遺伝子の塩基配列はemm1 と100%一致した。EMM蛋白はEMM1で、 発赤毒素と総称されるタンパク毒素はPCR法でspeA 、 speB が証明された。
新潟市衛生試験所生活課 田中毬子
新潟市保健所保健予防課 岩谷雅子
新潟市民病院新生児医療センター 大河原信人 山崎 明
新潟市民病院中央検査部 今井由美子
福島県衛生研究所 須釜久美子
国立感染症研究所 池辺忠義