小学校の調理実習が原因と推定された集団赤痢−山形県

(Vol.23 p 146-147)

2002(平成14)年3月8日午前11時過ぎ、 山形県の南部に位置する置賜保健所管内のA医療機関から某小学校4年生の児童数名が、 腹痛、 下痢(水様性、 血液性)、 嘔吐、 発熱等の食中毒様症状で発症し、 入院した旨の連絡があり、 食中毒の届け出がなされた。

当保健所で、 B医療機関から3人の検体(2検体粘血便)を回収し検便を実施したところ、 9日になって2人から赤痢菌が分離された。ほぼ同時にA医療機関でも食中毒様症状の患者から赤痢菌が検出されていることが判明し、 赤痢の届け出がなされた。

3月10日保健所内の赤痢対策会議を開き、 4年生とその家族の希望者に対して検便の実施を決めた。同日、 保健所職員が小学校に出向き4年生の保護者に対しての説明会を開き、 赤痢に関する情報の提供、 予防法(手洗いの徹底を指導)、 検便を実施するにあたっての協力、 理解を求めた。

12日の対策会議では患者が小学校の児童ということもあり、 拡大防止のために全校児童および、 教職員に対して検便の実施を決定した。また、 医師会に対して、 下痢患者には積極的に検査を実施するよう要請した。

全校検便(一次検査)は14日から開始され、 児童816人、 家族176人、 教職員46人、 計1,038人について実施した。この検査で赤痢菌が検出されたのは、 児童8人、 家族1人であった。検査を進めていく中で、 (1)赤痢菌陽性のうち1人の児童aは無症状病原菌保有者であり、 その家族の1人から症状があり、 赤痢菌が分離された事例が見つかった。(2)12日の検査では赤痢菌陰性だった4年生の児童bの家族から19日と20日に2人が赤痢に感染していることがわかり、 その後、 陰性だった児童bの検便を20日に実施したところ、 赤痢菌が検出された。このとき念のため陰性と判定した12日の検体(冷凍保存)も同時に再検査を行なったが、 PCRで組織侵入性遺伝子invE 陰性、 赤痢菌のコロニーも検出されなかった。なお、 この児童bは、 7日の時点で、 下痢、 腹痛、 発熱39.5℃の症状があり、 医療機関を受診していた。これら2つの事例から拡散防止のため、 リスクの高いグループに対してもう一度検査を実施する二次検査の必要性が判明した。対策会議では二次検査の範囲が議論され、 (1)3月5日前後に下痢、 腹痛、 発熱の症状を呈したが検便で陰性だった児童、 (2)赤痢菌が検出された人で、 治療終了後48時間以上経過した児童、 家族、 を対象とすることとした。二次検査は、 児童29人、 家族12人、 職員1人、 合計42人について25日〜26日に実施した。二次検査を受けた1人の児童cから赤痢菌が検出された。この児童cは、 7日に下痢・39℃の発熱があり医療機関を受診しており、 11日の一次検査で陰性であった。この地域では、 赤痢と同じ時期にインフルエンザ様疾患が流行しており、 児童b、 cともその治療のため、 同時期に行なった検査では菌は検出されなかったと推察される。感染の拡大を防ぐためには、 陰性であっても、 症状のあった人には、 再度検査を受けてもらい、 保菌者をなくすことが、 今後の拡散防止につながると考えられた。

今回の赤痢菌感染者(医療機関で分離された分:再掲)は児童15(7)人、 家族5(4)人、 計20(11)人であった。

検査方法は、 DHLとドリガルスキー改良培地に便を塗抹し18〜24時間培養後、 平板のコロニーかきとりを行ない、 PCR法を用いて組織侵入性遺伝子invE の検出を実施した。陽性となったものについてコロニーを分離し、 生物学的性状を調べ、 抗血清で確認を行なった。分離された赤痢菌は、 ソンネI相、 コリシン型6であった。

パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子型別を実施したところ、 20株全部同じパターンであった。このパターンは全国的に流行している韓国産の生カキから分離された赤痢菌のPFGEパターンと区別できなかったことから、 関連を疑い、 患者からカキ摂取の有無を過去にさかのぼって聞き取ったが、 いずれも喫食はみられなかった。今回韓国産カキと汚染経路は直接的には結びつかなかった。

分離赤痢菌の感受性を日本化学療法学会標準法の微量液体希釈法により実施した。その結果、 20株いずれも感受性に大きな違いは認められなかった。治療に用いられた薬剤には、 いずれも感受性を示した。今回、 各医療機関で処方された治療薬は、 小児はホスホマイシン、 大人はレボフロキサシンほか2種類であった。

患者の症状からみた発症状況を図1に示した。患者発生は3月6日2人、 7日児童12人、 家族1人の発症が認められ、 患者の発症のピークは7日であった。

この学校の給食は、 市の給食センターで調理しており、 ほかの7校でも喫食していること、 飲料水は市の上水道であることから、 この両者と本事件との関連は薄いと考えられた。しかし、 某学校給食については、 二次感染防止の観点から児童および教師全員の検便を実施し、 陰性が確認されるまで停止の措置を講じた。

他に患者に共通することとして5日の調理実習の授業があった。この調理実習は、 総合学習の一環として行なっており、 グループごとに作ったものはクラス全体でお互い食べあうことを目的としている。調理した品としては、 ケーキ、 そば、 春巻き、 ジュース、 クッキーなどであった。実習は、 3月5日に4年1組が9時〜10時30分まで、 同じく2組は10時30分〜12時まで行い、 調理後お互い作ったものを食し、 3組の児童も調理品をもらい一部食されていた。調査を進める中で、 赤痢に罹患した児童は、 この調理実習で作ったものを喫食した児童であったことから、 調理実習が感染経路と推定された。しかし、 各班で調理した食品を全員で喫食しており、 調理品の残物がなかったことから、 細菌学的検査は実施できず、 感染源究明ができなかった。今後、 何らかの形で、 調理実習の食材、 調理品の保存が必要であろう。

PFGEならびにコリシン型別に関して、 指導ならびに情報をいただきました山形県衛生研究所微生物部ならびに、 検査について全面的に協力いただきました、 山形県村山保健所検査課に深謝いたします。

山形県置賜保健所
鈴木道子 鈴木七郎 丹羽英二 北條昌知

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