A型肝炎患者(寿司店主)が感染源と思われるA型肝炎ウイルスによる食中毒−岐阜県

(Vol.23 p 147-149)

2000年9月〜10月にかけ複数のA型肝炎患者が岐阜県内のM地域で発生した。患者は感染が疑われる時期に同一の寿司店にて会食していたこと、 さらにその寿司店の従業員もA型肝炎で治療中であったことから食中毒が疑われた。

1)患者発生状況()

寿司店で摂食した15人がA型肝炎を発症、 摂食日から発症までの期間はA型肝炎の潜伏期間(3〜5週間)に一致していた。さらに食中毒患者の家族および接触者3人の発症が確認された。寿司店では店主を含む従業員10人中5人が発症していた。従業員A(店主)が発症した8月16日〜最終患者発生の11月5日の約2カ月半に合計23人が発症した。本事例の感染経路は、 ウイルスが糞便中に多く排泄される時期、 潜伏期間および聞き取り調査から推測すると3つの感染が考えられた。

 (1)寿司店従業員間の感染:従業員A(店主)→従業員B、 C(店主妻)(二次感染)→従業員D(三次感染)→従業員E(四次感染)。

 (2)食中毒事例:患者の寿司店での摂食日と発症した従業員の糞便へのウイルス排出が多い時期の検討から次の3つの食中毒が推測された。従業員A(店主)→患者10人、 従業員B、 C→患者4人、 従業員D→患者1人。

 (3)家族内感染:患者(9)→患者(16)、 (17)→患者(18)。

2)検査状況()

食材10(マグロなかおち、 マグロ、 卵焼き、 タコ、 ヒラメ、 ハマチ、 赤貝、 タイ、 イカ、 エビ)、 施設内のふきとり材料20、 寿司店および会食客勤務先井戸水、 従業員と肝炎発症客糞便18について、 ウイルス遺伝子の検出をRT-PCR法を用いて実施した。検出遺伝子はさらにVP1/2A部位168bp(3,024〜3,191)のダイレクトシークエンスを行い遺伝子解析を行った。従業員10人中発症者5人、 および肝炎発症客5人とその家族等3人の糞便材料からA型肝炎ウイルス遺伝子が検出された。食材、 ふきとり材料、 井戸水からはウイルス遺伝子は検出されなかった。従業員4人および患者5人から検出された遺伝子のgenotypeはすべて1Aであった。遺伝子の塩基配列は7人のものは初発従業員A(店主)と一致、 残りの1人も99.4%一致しており相同性が非常に高く、 同一感染源による感染と思われた。

従業員5人および患者3人について、 ウイルス排出の追跡調査を約2カ月間(4〜6回糞便を採取)にわたり行った。A型肝炎ウイルス遺伝子は、 短いもので発症〜32日目まで、 長いもので最長で77日目まで患者の糞便から1st PCRで検出された(平均50日)。

岐阜県保健環境研究所
猿渡正子 青木 聡 野田伸司 所 光男 木方 正
岐阜地域保健所本巣・山県センター 安江智雄
西濃地域保健所 大平恵美子
岐阜地域保健所 日置敦巳

IASR編集委員会註:多くのA型肝炎の予後は良好で慢性化することはないが、 まれに劇症化し死亡する例、 トランスアミナーゼの正常化に3〜6カ月を要する例や、 正常化後に再上昇する例もある。

飲食店を介したA型肝炎の集団発生についてIASRに報告が寄せられたのは、 この報告で3事例目である。

 1.寿司店を介し151名発症 Vol.15、 No.5、 1994
 2.レストランを介し71名発症 Vol.16、 No.10、 1995
 3.寿司店を介し23人発症 今回

飲食店などにおいては、 従業員の健康管理や手洗いの徹底などが必要である。

ちなみに、 わが国において50代以下の年齢層におけるA型肝炎抗体保有率は低く、 ことに30代以下では数%以下にすぎない(本月報Vol.18、 No.10特集参照)が、 感染予防にはA型肝炎ワクチンが有効である。わが国でも不活化A型肝炎ワクチンが開発されており、 任意接種として接種可能である。

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