保育園における腸管出血性大腸菌O121:H19の集団発生事例−佐賀県

(Vol.23 p 143-144)

2002年4月11日に福岡県にO血清型不明の腸管出血性大腸菌(EHEC)・VT2産生菌発生(保育園児)の届け出があった。患者住所が佐賀県であったため、 福岡県から佐賀県健康増進課に連絡があり、 佐賀中部保健所が調査を行った。

佐賀中部保健所は初発患者(4月6〜9日までホスホマイシンを服用していたため服薬中止から48時間後の陰性確認検査)、 家族3名および患者が通園している保育園の担当保育士3名の検便を行った。

検査法は当初、 血清型不明であったため、 シードスワブ採便検体を直接およびTSBブイヨンで6時間培養後、 DHL培地、 クロモアガーO157培地、 CTSM培地各2枚に塗抹培養し、 各培地からコロニーをsweep法にてPCRでVT確認検査を行った。その結果、 担当保育士1名からVT2産生菌を確認したため、 保育園児全員(72名)と保育園職員14名についての検便、 保育園の厨房・各教室のおもちゃ、 手洗い場の蛇口・便器等のふきとり、 および検食12食分について検査を行った。その結果、 保育士1名および園児15名からVT2産生菌が確認された。次いで、 感染者の園児の家族70名(14家族)について検査した結果、 5名からVT2産生菌が検出され、 計23名の感染者が確認された。そのうち6家族15名(3家族が2名ずつ検出、 残り3家族が3名ずつ検出)は家族内感染があった。また、 有症者は16名、 無症状者は7名(発症率69.6%)であった。

感染者23名中10名から分離された菌について国立感染症研究所に血清型別およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を依頼した結果、 10名はすべてEHEC O121:H19で、 遺伝子型も一致した。

初発患者の菌株はDHL培地上で乳糖分解性のコロニー、 1%ラムノース加CTマッコンキー(CTRM)培地上で芯のある薄赤褐色のコロニーであった。他の培地(SS培地、 クロモアガーO157培地、 CTSM培地、 1%ソルボース加CTマッコンキー培地)上では一般的な大腸菌の性状を示した。しかしながら、 初発患者の陰性確認で検出された菌株、 および初発患者以外の感染者の菌株はすべてDHL培地、 CTMAC培地上で乳糖遅分解性のコロニーが確認され、 分離培地上で2種類の性状を確認した。このため、 検査方法について混乱が生じた()。

接触者検便は市販血清がなく、 スクリーニングが困難なことから保健所と当センターでは、 TSBブイヨン中で6時間培養後、 CTRM培地、 クロモアガーO157培地に塗抹培養し、 CTRM培地上で芯のある薄赤褐色のコロニ−をPCRにてVT産生検査を行い、 VT2産生菌株について血清凝集反応を実施した。その結果、 すべてEHEC O121:H19であった。

陰性確認検査はTSBにて6時間増菌培養後、 CTRM培地、 クロモアガーO157培地、 DHL培地、 BHI培地でいずれかの培地に発育することを確認し、 CTRM培地上で芯のある乳糖遅分解性のコロニーについてPCR検査を行った。いずれの培地にも発育しない検体については、 抗菌薬の影響を考慮し、 1〜4日後に再検査した。その結果、 陰性確認検査でEHEC O121:H19が検出されたのは再度陽性者が2名、 再々度陽性者が2名であった。この検査方法は陰性確認を確実にするために有効であったと思われる。

分離培養についてはEHEC O121:H19が2つの性状を示すことから、 乳糖分解性を指標としたCT加マッコンキー培地、 1%ラムノ−ス加CTマッコンキー培地およびDHL培地などの低抑制培地の併用が適切であると思われる。また、 O121診断用血清の市販が望まれる。

5月9日に陰性確認を終了し、 患者発生届け出から29日間で終息したが、 感染源および感染経路については不明であった。EHEC O121:H19による保育園での集団感染はまれな事例であるが重症化することも報告されており、 本菌に関する散発事例は慎重に調査および検査を行うべきであると思われる。

佐賀県衛生薬業センター
増本喜美子 森屋一雄 隈元星子 藤原義行 山口博之
佐賀中部保健所・感染症対策係 検査室
国立感染症研究所 寺嶋 淳 田村和満
宮崎県衛生環境研究所・微生物部 河野喜美子

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