脳症患者の咽頭ぬぐい液および髄液から検出されたA群コクサッキーウイルス−兵庫県

(Vol.23 p 174-174)

1999年、 兵庫県では手足口病(HFMD)等のエンテロウイルス感染症の例数が少なく、 分離エンテロウイルス[B群コクサッキーウイルス2、 3、 4型やA群コクサッキーウイルス(CA)4、 6および16型等]も散発事例からが多かった。しかし、 重症患者1名からエンテロウイルスが分離された。この患者はHFMDに脳症を併発していた。当初、 臨床症状等からエンテロウイルス71型(EV71)感染が疑われたが、 以下の結果からCA感染と推定された。

臨床症状:1999年7月25日、 朝まで元気にしていた兵庫県T市に在住の2歳4カ月男子が午前11時頃に流涎してぐったりした。顔色不良を伴い一点凝視となった。間代性けいれんのため近医にてジアゼパムの静注を受けた後、 公立豊岡病院の救急外来を受診して入院となった。手足に発疹が見られたが水疱ではなく丘疹であった。入院後もけいれんが頻発し、 人工呼吸管理となったが翌日にはけいれんが消失し、 人工呼吸器から離脱した。

入院時38.1℃の発熱を認めたが、 CRPは1.19mg/dlと軽度で、 髄液所見では細胞数9/3mm3>と増多を認めず、 頭部CTにも特記すべき所見は見られなかった。抗けいれん剤、 脳圧降下剤等の投薬で治療して軽快し、 8月5日に退院となった。

髄液細胞数の増多を認めなかったことから、 脳症と考えた。また患児は熱性けいれんの既往と軽度の発育遅滞がみられていた。ペア血清でEV71の抗体価検査を行ったが1病日、 18病日とも中和抗体4倍未満で、 上昇は見られなかった。

ウイルス検査結果:咽頭ぬぐい液検体をRD-18S細胞に接種して観察したところ、 CPEの進行が遅く、 継代培養しても明確なCPEは出現しなかった。そこで、 RD-18S細胞でCPE の明瞭でない分離ウイルスを、 国立感染症研究所から分与されたRD-A細胞(24ウェルマイクロプレート中の6ウェル)に接種すると、 33℃培養により2ウェルでCPE++++となった。咽頭ぬぐい液検体を哺乳マウスに皮下接種したところ4日目に 13/13匹すべてに弛緩性麻痺が認められ10匹が死亡した。患者から発症当日に採取された髄液検体について同様にウイルス分離を試みたが分離陰性であった。分離株について免疫粘着赤血球凝集反応(IAHA反応)を試みたところCA6 で抗原希釈1:4まで凝集が見られ、 同時に反応させたCA1、 2、 4、 5、 8および16型では1:2でも凝集が見られずCA6であることが強く示唆されたが、 凝集がやや不完全で確定できなかった。

咽頭ぬぐい液および髄液検体から抽出したRNAについてVP4領域を含む領域をRT-nested PCRにより増幅したところ、 いずれの検体でもエンテロウイルスに特異的な増幅産物が得られ、 2つの増幅産物の塩基配列は完全に一致した。この配列をGenBankで検索するとaccessionnumber AB047331(日本のCA6分離株と最も近かった。VP4領域についてGENETIXでアライメント解析した結果、 ゲノムで191/207base(92%)の相同率、 アミノ酸に翻訳して 64/69(93%)の一致が見られた。

患者の髄液からCA遺伝子が検出されたことから、 この患者の脳症はこのCAによって引き起こされたことが強く示唆された。また、 IAHAおよびシークエンスの結果から、 分離されたCAはCA6変異株である可能性が極めて高いと考えられた。

兵庫県立健康環境科学研究センター
藤本嗣人 近平雅嗣 増田邦義
横浜市衛生研究所 宗村徹也
国立感染症研究所 西尾 治 吉田 弘
公立豊岡病院
武田和子(現 神戸大学病院) 吉田真策

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