東北地方における赤痢事例分離株の解析

(Vol.23 p 179-180)

2001(平成13)年11月下旬から西日本を中心に赤痢患者が相次いで発生した。患者が共通に喫食していたのは山口県内の加工者が出荷した生ガキであったことから、 当該カキが原因食品と断定されカキの流通経路の解明とカキからの赤痢菌検出検査が行われた。その結果、 韓国から輸入したカキからソンネ赤痢菌が検出されたため、 赤痢菌で汚染された輸入カキが加工業者を経由して全国に流通し、 赤痢のdiffuse outbreakが発生したと判明した。

東北地方においても同時期に赤痢の発生があり、 感染源究明のための検査が緊急的に必要であると思われた。そこで、 各県衛生研究所と連携し、 各県で同時期に検出された菌株を集め、 パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析と薬剤感受性試験を実施して菌株の比較検討を実施した。

検査対象菌株は各県で検出されたShigella sonneiで、 青森県1菌株(青森株)、 秋田県1菌株(秋田株)、 岩手県1菌株(岩手株)、 山形県2菌株(山形-1、 -2株)、 仙台市1菌株(仙台株)、 福島県1菌株(福島株)および宮城県2菌株(宮城-1、 -2株)と、 対照として別事例分離2株(対照-1、 -2株)の合計11菌株とした。

PFGE解析には制限酵素Xba Iを用い、 泳動はBIO-RAD社製のCHFE Mapperで6.0V/cm、 スイッチタイム5.3〜49.9sec.の条件で実施し、 その結果を図1に示した。対照-1、 -2株、 福島株、 宮城-2株を除いた7菌株のPFGEパターンはすべて一致している。また、 図2に示した国立感染症研究所より電送された西日本流行株(流行株)のPFGEパターンと東北で分離された上記7菌株のパターンは一致した。

一方、 17種類の薬剤(アンピシリン、 ピペラシリン、 セファゾリン、 セフォチアム、 セフメタゾール、 セフチゾキシム、 セフタジジム、 セファクロル、 ラタモキセフ、 アズトレオナム、 ゲンタマイシン、 アミカシン、 ミノサイクリン、 イミペネム、 オフロキサシン、 ホスホマイシン、 ナリジクス酸)に対する感受性試験を実施した結果を表1に示した。対照-1、 対照-2株、 福島株および宮城-2株の4菌株はナリジクス酸、 オフロキサシンに対して感受性であったが、 上記のPFGEパターンが一致した7菌株はナリジクス酸に耐性、 オフロキサシンに対するMICが4倍以上の差を示している。このように両者にはキノロン系薬剤のナリジクス酸とオフロキサシンに対する感受性において明らかな相違が認められた。

以上のPFGE解析および薬剤感受性試験の結果から、 2001年11月下旬〜2002(平成14)年1月中旬に東北各地で検出されたソンネ赤痢菌9菌株のうち福島株、 宮城-2株の2株を除いた7菌株が流行株と由来が同一であったと考えられ、 流行株が何らかの経由で東北に波及したと思われる。

今回、 東北地方の各地研から比較的早い段階で菌株が分与されたため、 同一施設で同時に細菌学的解析が実施され、 diffuse outbreakの究明が迅速に行われた。これを機に広域的な感染症の拡大を防止する目的で今後も地研間の相互協力が重要と思われる。

東北食中毒研究会
宮城県保健環境センター
齋藤紀行 佐々木美江 山口友美 畠山 敬 渡邊 節 秋山和夫
秋田県衛生科学研究所 齋藤志保子 八柳 潤 伊藤 功
青森県環境保健センター 大友良光
岩手県環境保健研究センター 熊谷 学(現盛岡保健所) 佐藤 卓
福島県衛生研究所 長澤正秋
山形県衛生研究所 大谷勝実
仙台市衛生研究所 吉田菊喜
国立感染症研究所 寺嶋 淳 田村和満 渡邊治雄

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