急性脳症と診断された10歳男児髄液からのコクサッキーウイルスA16型の検出

(Vol.23 p 173-174)

2002年1月、 京都府内に在住する10歳男児が頭痛、 発熱、 嘔吐、 痙攣を主訴に府下の病院に入院した。入院後は意識障害が徐々に進行し、 痙攣の回数が増えたため(1日に6回)、 急性脳症の診断のもとに、 ステロイドパルス療法、 γ−グロブリン療法を行ったところ、 意識レベルの改善がみられ、 抗痙攣剤(VPA 20mg/kg/day)の内服のみでほぼ通常に近いレベルまで回復しつつあった。入院後の髄液検査については経過中、 蛋白、 糖の異常を認めず、 細胞数も入院4日目で11/mm3と有意な上昇は認めなかった。なお、 脳波では依然著明な改善は見られず、 また、 痙攣発作も消失しておらず、 治療継続中である。

ウイルス検査用の検体として、 入院4日目の髄液が採取された。ウイルス分離は培養細胞(FL、 RD-18S、 Vero、 MDCK)およびddY系哺乳マウスを用いて行った。培養細胞では細胞変性効果(CPE)は観察されなかったが、 哺乳マウスでウイルスが分離できた。トルソーを定法により処理し、 CF(補体結合反応)試験を、 コクサッキーA群(CA;1〜7型、 10型、 16型:国立感染症研究所より分与、 12型:島根県保健環境科学研究所より分与)に対するCF抗血清を用いて行ったが同定できなかった。そこで、 同CF検液を培養細胞(FL、 RD-18S、 Vero)に接種したところ、 Vero細胞でのみCPEが観察されたので、 中和抗血清(CAおよびEV71)による中和試験を試みたが、 これも同定できなかった。このため、 Vero細胞感染ウイルス液について遺伝子検査を行うこととした。遺伝子検査は大阪府立公衆衛生研究所に依頼した。

CDCが開発した汎エンテロプライマー(012,040:上流、 011:下流)を用いRT-PCRを行うと、 増幅産物(VP1の後半と2Aの一部を含む)が得られた。このPCR増幅産物についてダイレクトシークエンスを行い、 GenBank等の登録データとNCBI BLASTを用いた相同性検索(ホモロジーサーチ)を行うと、 CA16(AF081613:isolate GA95-2095 VP1 gene, partial cds Length=411)と97%(400/411)の塩基配列のホモロジーが有り、 他に類似の型がなかったのでCA16と同定された。

本市では、 1991(平成3)年〜2000(平成12)年の10年間にCA16は14件分離同定されている。全例が哺乳マウスで分離され、 5件はVero細胞でも分離されており、 同定はすべてCFで確定できていたが、 本件は、 CF、 中和等で同定できず、 遺伝子検査で同定できた事例である。他にも、 2001(平成13)年12月にヘルパンギーナ患者から採取された咽頭ぬぐい液2検体が同様の経過を示し、 遺伝子検査でCA16と同定された。今後CFで同定できない事例が増加することも予想される。

最後に、 ご多忙中にもかかわらず、 遺伝子解析を快く引き受けて下さるとともに、 解析に関してご指導を賜った大阪府立公衆衛生研究所の山崎謙治先生に深謝いたします。

京都市衛生公害研究所 梅垣康弘 宇野典子 近野真由美 唐牛良明

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る