2002年4月、 七尾市内のK病院より市内の小学生から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157を分離したとの連絡が当センターにあり、 その家族、 親戚、 小学校、 保育園等で検便検査を行った結果、 計11名からEHEC O157:H7[VT2産生](以下O157)を分離した。また、 抗菌薬投与後の菌陰性化確認後に、 再度排菌を認めた3例を経験したので、 菌の陰性化の確認についても言及しながらその概要を報告したい。
4月17日、 七尾市内のK病院より4月6日から下痢、 血便、 腹痛の症状があり、 4月11日入院した市内の小学2年生(8歳、 男児)からO157が分離されたと届け出を受けた。
当センターで患者および患者家族の健康調査(検便)を行った結果、 患者の両親および患者宅に頻繁に同宿していた姪姉妹2名(2歳および1歳)の計4名(いずれも健康保菌者)からO157を分離した。そこで、 4月22日〜5月2日に、 姪姉妹の通園している保育園、 保育園職員および園児の家族の健康調査(検便)を行った結果、 保育園児5名(患者4名、 健康保菌者1名)、 園児の家族1名(健康保菌者)、 保育園職員1名(健康保菌者)の計7名からO157を分離した。なお、 5月2日以降のこれら家族等の検便では新たな感染者の発生はなかった。
分離した12菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法によるDNA切断パターンはすべて一致し、 同一由来株であった。なお、 関連施設の検食からはO157が分離されず、 今回の事例の感染源は特定できなかった。
二次感染拡大の経路は、 保育園での初発患児の姪姉妹と他園児との接触によると思われたが、 EHEC感染症の発病までの潜伏期間を3〜14日間とすると、 初発患者の届け出前にすでに感染していた可能性が高く、 感染者の登園の自粛や保育園に対する感染予防対策の徹底により、 対策実施後すなわち、 4月21日以降の拡大はなかったと考えられる。
保育園はオムツ交換、 玩具等の共有、 園児間の濃密な接触など、 特殊な環境であること、 また感染に対する抵抗力が弱いことなどにより、 二次感染の危険が極めて高く、 感染の拡大防止のためには可及的速やかな接触者の把握、 健康調査(検便)および感染予防対策の実施が重要であると思われた。
患者5名、 健康保菌者7名、 計12名全員に、 初回はホスホマイシン(FOM)40mg〜100mg/kg/day、 3〜8日が投与された。途中感受性試験で感受性の低下ないし抵抗性を示した2名(8歳、 4歳)では、 別の抗菌薬に変更された。また、 下痢、 血便、 腹痛などの症状の強い患者2名(8歳、 1歳)に対しては、 止痢剤、 整腸剤が5〜10日間併用された。
抗菌薬使用中および投与終了48時間経過後の菌検査では全例陰性を確認したが、 うち3名(8歳、 4歳、 1歳)が抗菌薬投与終了後10〜13日目の再検査で陽性となり、 うち1名(8歳)は発症した。なお、 再分離された株は、 PFGEで同一の菌株であることを確認した。抗菌薬投与後再び便中に排菌がみられた原因として、 抗菌薬の投与量、 投与期間、 菌の感受性の変化、 抗菌薬の種類、 止痢剤の併用などが考えられたが特定には至らなかった。
本事例を経験した結果より、 現在の菌陰性化の確認法である「抗菌薬投与中および投与終了から48時間経過後の2回陰性」という方法は再考する必要があるのではないかと思われた。
石川県能登中部保健福祉センター
橋本喜代一 杉盛耕益 高岡菊江 木場久美子 山本正子 佐藤日出夫
石川県保健環境センター
倉本早苗 米澤由美子 芹川俊彦