エコーウイルス13型による無菌性髄膜炎の流行および県内住民抗体保有状況−福井県

(Vol.23 p 172-173)

福井県において2001年9月11日に無菌性髄膜炎を発症した生後1カ月の患児髄液より、 当時日本国内ではほとんど検出報告のなかったエコーウイルス13型(E13)が分離された。分離にはHEp-2、 CaCo-2、 RD-18S細胞を用いたが、 いずれの細胞によっても初代培養でエンテロウイルス(EV)様の細胞変性効果(CPE)が観察可能であり良好に増殖した(HEp-2細胞使用時の2代培養後の感染価は105〜106/0.025mLであった)。当初はEP95と抗EVプール血清を用いた中和試験で同定を試みたが不成立であったため、 シュミットプール血清を用いたところ明瞭にE13と同定された。また、 その後購入したデンカ生研製の抗E13単味血清でも容易に中和可能であることを確認した。

ウイルス同定直後でのE13流行報告は海外に限られており、 日本国内への侵淫度が不明であったため、 このE13福井株を分離した前後の福井県内住民血清[2000年秋期(9〜10月採取)および2001年秋期(10〜11月採取)]について、 E13福井株に対する中和抗体保有率調査を行った。その結果はのとおりで、 中和価8倍以上を抗体保有陽性とした場合の陽性率は、 2000年が3.3%、 2001年が3.4%と非常に低く、 E13福井株分離の時期に侵淫があったとは考えにくい結果であった。住民の抗体保有率が皆無に等しいことから、 今後大流行につながる可能性も予想されたため、 2002年2月には、 福井県結核・感染症予防対策委員会での報告や地元新聞報道などを通し、 県内の医療関係者に注意を喚起した。

その後E13の国内他地域における流行報告[2001年9月〜11月の福島県(本月報 Vol.22、 No.12参照)、 2001年11月〜2002年3月の大阪市(本月報 Vol.23、 No.5参照)など]が相次ぎ、 県内での動向に注目していたところ、 2002年2月23日に採取したインフルエンザ様疾患患者由来の咽頭ぬぐい液からE13が分離された。ほぼ時を同じくして、 T地区内での感染症発生動向調査において無菌性髄膜炎の患者発生報告が見られるようになり、 5月にはT地区に隣接するF地区における無菌性髄膜炎患者報告数も増加し始めた()。

当センターにも、 F地区での患者報告数の増加にやや先立つ形で4月23日ごろから無菌性髄膜炎患者検体が搬入されるようになった。患者分布は一般的な好発年齢とされる幼児・学童にとどまらず年長児や大人にも及び、 家族内発生が比較的目立つ。検体はほとんどが髄液で、 早速ウイルス分離を試みたところ、 強いEV様のCPEが観察されるウイルス株(特にCaCo-2細胞使用時に増殖良好)が次々と分離された。いずれも、 2001年福井株分離の時と同様、 デンカ生研製の抗E13単味血清で良好に中和され、 4月以降のF地区における無菌性髄膜炎流行の主要病原体はE13であることが確認された。また、 2〜4月にT地区内で採取・保存されていた患者検体もその後搬入され、 ウイルス分離・同定作業の結果、 同じくE13が流行の主体であったことが確認された。6月7日の時点で、 43症例の無菌性髄膜炎患者検体を受け付けたが、 そのうち32例でCPE陽性を確認、 25例がE13と同定されている()。

福井県衛生環境研究センター
東方美保 中村雅子 浅田恒夫 松本和男 堀川武夫

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る