保育園を中心に発生した細菌性赤痢集団感染事例−福井県

(Vol.23 p 201-202)

2002年1月中旬〜3月初旬にかけて、 県中部の一保育園を中心に延べ患者数29名の細菌性赤痢の集団感染が確認された。

1月18日、 A保育園の園児1名が細菌性赤痢と診断されたため、 患児の通園する保育園において患児と同時期に発熱、 下痢などの症状があった園児4名と全職員25名の検便を行った。その結果、 園児1名と保育士2名から赤痢菌が検出されたため、 23日から自主休園するとともに、 他の園児および患者家族の検便、 検食および給食施設等のふきとり材料の検査が実施された。検食およびふきとり材料からは赤痢菌は検出されなかった。検便では園児148名中9名、 学童保育児(小学生で放課後保育を当該保育所で受けていた者)11名中2名、 および患者家族83名中9名から赤痢菌が検出され、 計24名の患者が確認された。学童保育児が通うB小学校の同学年の全児童76名と職員21名の検便も実施したが、 全員陰性であった。

その後、 本園再開にあたっての自主検便を開始したところ、 2月28日に園児1名の再排菌と考えられる赤痢菌の陽性が確認された。そこで濃厚接触者等に対し検便を行った結果、 園児42名中2名、 職員15名中1名(保育士)および患者家族20名中1名(C小学校生)から赤痢菌が検出された。C小学校については患児と同学年の児童94名と職員9名の検便を実施したが、 全員陰性であった。菌陽性が確認された4名中2名は1月に実施した行政検査で陽性だった者で、 治療の結果、 いったん陰性化が確認されており、 再排菌したと考えられた。他の2名は行政検査で陰性だった者であるが、 その際家族に陽性者が確認されていた。一連の延べ感染者数は再排菌の3名を含めて29名となった。

糞便の行政検査は当センターと福井健康福祉センターで行い、 検査方法はDHLとSS寒天培地を用いて常法どおり行い、 抗血清で確認した。当センター検査分におけるDHLとSSの分離成績は、 396検体中両培地から分離できたのは14検体、 SSのみからは8検体、 およびDHL のみからは1検体であった。分離された赤痢菌はいずれもShigella sonnei I相で、 組織侵入性遺伝子ipaH はすべての株が、 invE は1株を除いてすべての株が保有していた。薬剤感受性試験は、 アンピシリン、 ストレプトマイシン(SM)、 テトラサイクリン、 シプロフロキサシン、 カナマイシン、 セフォタキシム、 クロラムフェニコール、 スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤(ST)、 トリメトプリム(TMP)、 ナリジクス酸(NA)、 ホスホマイシン、 ゲンタマイシンの12剤についてセンシディスクを用いてKB法で実施した。その結果、 29株すべてがSM、 ST、 TMPおよびNAの4剤に耐性を示した。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による制限酵素(Xba I)切断パターンはすべての株が同一パターンを示し、 国立感染症研究所によりA型と判定された。さらにコリシン型別を大阪府立公衆衛生研究所に依頼したところ、 1株(13A型)を除いてすべて6型であった。

以上の成績および疫学調査により、 1月中旬〜2月上旬に確認された24名は、 園における比較的年長児に対する単一曝露による発症とその二次感染と疑われ、 さらに2月下旬〜3月上旬に確認された5名は再排菌あるいは二次感染者であることが示唆された。疫学調査の結果(患者は海外渡航歴がないこと、 検食から赤痢菌が検出されてないことなど)からは、 感染源および感染経路を特定することはできなかった。

なお、 2001年末にカキが原因と考えられた福井県内の2名の赤痢患者由来株と、 今回の株とを比較すると、 菌型、 PFGE型およびコリシン型は一致したが、 薬剤感受性パターンは異なった。また、 今回の事例では各患者の使用薬剤はホスホマイシンおよびニューキノロン剤であり、 薬剤感受性試験では感受性と判定されているにもかかわらず、 陰性化確認後の明らかな再排菌例が3例あった。

コリシン型別を実施していただいた大阪府立公衆衛生研究所微生物課およびPFGE型別を実施していただいた国立感染症研究所細菌第一部に深謝します。

福井県衛生環境研究センター 石畝 史 中村雅子 浅田恒夫
福井県福井健康福祉センター 寺本利通 森阪優紀子 持田壮一
福井県丹南健康福祉センター 浦松和枝 木谷哲夫

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