平成13年度に多発したT22 型による劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症−沖縄県

(Vol.23 p 200-201)

劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症(以下TSLS)は、 免疫不全などの重篤な基礎疾患を保有していないにもかかわらず突発的に発症し、 急速に軟部組織壊死、 循環不全、 多臓器不全に進行するA群レンサ球菌による敗血症性ショック病態である。沖縄県では1998年に最初の患者が報告されて以来、 2002年3月までの4年間に6例の患者が発生し、 うち2名が死亡している。今回2001年4月、 8月および2002年2月に相次いで発生したT22 型による3例のTSLSの症例について報告する。

症例1:53歳・男性。2001年4月19日に魚を食べた際、 骨がのどに刺さったもののとれずに放置。翌日の20日軽度の発熱、 右顔面腫脹が出現。舌が腫れて水分がとりにくくなった。21日高熱、 高度の顔面腫脹により救急外来受診、 入院となる。入院時体温38.6℃、 脈拍124、 血圧130/70mmHg、 WBC800/μl。入院後の経過は、 右頬部から頚部にかけて腫脹、 右唇がやや黒色に変化していた。右扁桃、 舌の腫脹も著明で、 顔面腫脹などの症状の急激な悪化がみられた。重篤な軟部組織感染症が疑われたため、 すぐにICUへ入室した。2〜3時間後、 呼吸状態が悪化し経鼻挿管される。23日、 収縮期血圧が60mmHg付近まで低下し、 ドーパミン開始。急激な進行に加え、 22日の血液培養試験よりグラム陽性球菌が検出されたため、 TSLSを疑い、 病巣の外科的切除目的で23日23時頃緊急手術となる。術後、 一時期DICも起こしたが、 おおむね順調に回復した。投与抗菌薬:PCG 300単位4時間おき、 CLDM 600mg8時間おき。

症例2:5歳・女性。2001年8月3日朝、 右上腕の痛みがあるものの腫脹、 発赤は無し。その日より下痢がある。翌4日の朝、 下痢がひどくなり元気もないため救急センターを受診した。全身がぐったりし、 右上腕に直径5〜6cmの皮膚の壊死、 腫脹を認めた。呼びかけに反応するが、 離握手できない意識障害、 体温40℃、 脈拍140、 血圧も低く78/40mmHgであったため、 敗血症性ショックを疑いICU入院となった。入院後WBC 8,900/μl 、 AGBにてpH 7.41、 PaCO2 22mmHg、 PaO2 101mmHg、 HCO3- 13mmol/lと代謝性アシドーシスを示し、 また、 右上腕病変も急激に悪化した。5日、 血液培養試験よりグラム陽性レンサ状球菌陽性となったため、 TSLSを疑い、 緊急に右上腕皮膚の外科的切除を行い、 昇圧剤、 抗菌薬も投与された。8月10日現在、 順調に軽快。

症例3:67歳・男性。10年前に右耳中耳炎手術の既往歴あり。高血圧、 糖尿病にて経過観察中。また、 2002年2月9日より風邪気味で市販の感冒薬を服用していた。2月10日より顔面の腫れを自覚。翌11日、 顔面の腫脹が増強し、 高熱(39〜40℃)にて救急外来を受診した。来院時、 顔面の腫脹、 発赤が著明で、 眼瞼の腫脹のため開眼が困難。口唇も腫脹し、 口腔内は壊死状に変色。発赤は頭頚部から前胸部に限局。原因不明のまま同日入院となった。入院時体温38.5℃、 脈拍130、 血圧136/74mmHg、 WBC 12,200/μl、 CRP 6.25。入院後、 状態は急速に悪化、 血圧低下し昇圧剤開始。呼吸状態も悪化し人工呼吸開始。顔面の腫脹も次第に増強。咽頭粘液および眼脂のグラム染色でグラム陽性レンサ球菌が認められ、 TSLS疑いとして治療開始。吸着療法施行(2回)、 持続的血液瀘渦透析導入(無尿、 サイトカイン除去目的)。病原部が頭頚部であり口腔内の壊死であったため外科的切除は断念し、 保存的に加療。2月15日、 全身状態は改善し、 vital signは安定してきたものの、 発症から10日後の2月22日、 容態が急変し永眠された。投与抗菌薬:CLDM、 PIPC、 CAZ 。

今回の3症例より検出された菌はいずれもA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes )T22 型、 発赤毒素speB+C であり、 症例1および2はM22型、 症例3はM型別不能であった。また、 制限酵素Sma Iを用いパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)で遺伝子パターンを比較したところ、 これら3株はほぼ同一であった(図1)。沖縄県では、 全国的に分離比率の高いT1、 T4、 T12型よりもT22 の分離比率が高く、 他府県とは異なる傾向を示している(図2)。また、 全国的にT22型は、 咽頭炎から分離される比率が低い(2.3%)にもかかわらず、 TSLSから分離される比率が高い(7.2%)T型の一つでもある。

本症は病状の進行が非常に急激かつ劇的であるため、 救命率を上げるためにも、 初期症状の段階で本症を疑い、 培養検査に加え、 速やかな皮膚滲出液、 血液グラム染色の鏡検を実施し、 早期診断と治療を心がける必要がある。そのためには本症についての詳細な早期発見・治療に関するガイドラインの作成と、 広く理解してもらうための広報が重要である。

今後、 発症要因を解明し、 これに基づいた新しい治療法の開発が求められる。

沖縄県衛生環境研究所
微生物室 久高 潤 平良勝也 安里龍二
沖縄県感染症情報センター 下地實夫 宮城朝光
埼玉医科大学総合医療センター整形外科 滝沢公章
伊平屋診療所 小嶋 一
沖縄協同病院内科 田島 隆
大分県衛生環境研究センター 阿部義昭
国立感染症研究所・細菌第一部 池辺忠義

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