現在世界は1961年にインドネシアから始まったエルトールコレラ菌による第7次コレラパンデミー下にある。従来よりエルトールコレラ菌は、 薬剤耐性株の出現頻度が他の腸管系病原菌より低いとされていたが、 近年その薬剤耐性化が問題となってきている。1981〜2001年に、 東京において主として海外旅行者による輸入事例より分離されたエルトールコレラ菌271株の薬剤耐性試験の成績を紹介する。
供試薬剤は、 クロラムフェニコール(CP)、 テトラサイクリン(TC)、 ストレプトマイシン(SM)、 カナマイシン(KM)、 アンピシリン(ABPC)、 ST合剤(ST)、 ナリジクス酸(NA)、 およびノルフロキサシン(NFLX)の8種で、 KBディスク法により実施した。
表1に、 5年間隔で見た耐性菌出現状況とその耐性パターンを示した。耐性菌の頻度は、 1981〜1985年は1.2%、 1986〜1990年16%、 1991〜1995年54%、 1996〜2001年71%であり、 近年急激に上昇してきていることが判明した。全体におけるこれら耐性菌の耐性パターンを見ると、 SM単剤耐性が76%を占めていたが、 治療に汎用されてきたTC耐性を含む多剤耐性株も1992年以降10株認められている。これらの耐性パターンはいずれもCP・TC・SM・STの4剤耐性で、 検出された患者の渡航先はタイ5件、 中近東3件、 インド1件、 中国1件であった。近年その出現が注目されているNA高度耐性で、 ノルフロキサシン等のニューキノロン系薬剤に低感受性のものも1997年に1株、 インド旅行者より検出されている。
東京都立衛生研究所多摩支所 松下 秀