鳥展示施設に関連したオウム病集団発生事例−島根県松江市

(Vol.23 p 247-248)

2001(平成13)年12月28日、 市内医療機関から島根県松江健康福祉センターに「松江市内の鳥展示施設の実習生がオウム病疑いである」との一報があった。12月31日、 同症例はオウム病と確定診断され患者として同センターへ届けられた。さらに、 2002(平成14)年1月7日〜2月15日にかけて同施設職員4例、 また5月24日までに同施設の来園者12例(島根県6例、 広島県4例、 大阪府2例)のオウム病発生届け出がなされた(患者は合計17例)。

島根県はオウム病疑いの一報後、 直ちに当該鳥展示施設へ立ち入り調査を開始した。その後、 医療機関および一般住民へ情報提供するとともに、 国立感染症研究所(感染研)実地疫学専門家養成コース(FETP)他の協力を得、 本事例における原因究明のための実地疫学調査を行った。

また、 当該施設を所管する松江市も住民への情報提供を行い、 一般相談窓口を開設するとともに、 オウム病の専門家10名で構成するオウム病調査委員会[委員長:松本 明(岡山大学)]を設置し、 原因究明にかかわる調査を開始した。

当該鳥展示施設は2001年7月23日に島根県松江市内に同市が開設し、 鳥約 1,300羽を飼育・展示していた。開園以来の入場者数は2002年1月16日(施設一部閉鎖)までに一日平均約 1,600人、 合計約28.5万人であった。当該鳥展示施設には温帯鳥の温室(W室)と熱帯鳥の温室(T室とP室)があり、 W室は鳥が自由に移動しているところを来園者が通過する形態の展示方法で、 T室はガラスケージ内での展示の他、 オウム類の繋留展示や水鳥の人工池での展示が行われていた。P室は来園者が手乗りで鳥へ給餌が行える展示形態であった。また、 BY室およびS室(2階建て)等施設職員のみが出入りする施設もあり、 BY室は展示の待機鳥を飼育し、 P室と金網のみで仕切られている一体空間の施設であった。S室は2階が職員の控え室、 1階が鳥の餌を作る施設であったが、 当該鳥展示施設内には鳥の診療施設が無かったため病鳥の治療および飼育を主に1階で行っていた。また、 開園以降も外部施設から鳥を搬入していたが、 鳥の適切な検疫は実施されていなかった。さらに、 施設鳥の健康管理および病鳥の治療を担当する獣医師が常駐していなかった。

施設職員患者の発症日は2001年12月8日〜20日であったが、 来園者患者の発症日は2001年11月16日〜2002年1月9日にわたっていた。来園者患者直近の来園日は2001年11月4日〜12月15日、 特に12月14日に2例、 15日に6例が来園していた。

来園者患者の特徴として、 12例中10例が午前中に入園していた。これに関して、 11月下旬頃からBY室で高圧洗浄機を用いた清掃が午前中いっぱいかけてほぼ毎日行われており、 清掃によりChlamydia psittaci (C. psittaci )の感染が成立しやすい状況となった可能性もあるが、 詳細な検討はできなかった。また、 12例すべてが全展示室を見学していたが、 そのうち5例は鳥を全く触っていなかった。

施設職員患者の特徴として、 患者はすべて鳥の飼育・管理等を担当するスタッフであった。また、 施設職員で協力が得られた93名についてオウム病クラミジアmicro-IF抗体検査を実施した結果、 届け出症例以外に8名の血清学的急性感染者(うち6名は無症状、 2名はインフルエンザ様の自覚症状があった)が判明した。併せて、 職員の勤務場所等にかかわるアンケート調査を実施し、 後ろ向きコホート研究を行ったところ、 C. psittaci 感染リスクはS室1階への立ち入りのみが統計学的に有意であった(RR:3.49、 95%信頼区間:1.02〜11.93)。

次に、 病原体の感染源調査のため2002年1月下旬〜2月上旬にかけて当該施設内の落下糞便、 施設鳥の総排泄腔スワブ、 土や水等の環境検体のサンプリングを行い、 県保健環境科学研究所および岐阜大学、 感染研においてPCR-RFLP法にてC. psittaci 遺伝子の検出を試みた。その結果、 落下糞便125検体中T室から8検体、 BY室から3検体C. psittaci 遺伝子を検出した。C. psittaci 遺伝子が検出された検体には、 開園当初からいた鳥のケージ内や他施設から移入した鳥のケージ内の落下糞便もあった。また、 総排泄腔スワブ 252検体中10検体の鳥からC. psittaci 遺伝子が検出された。土や水等の環境検体31検体からはC. psittaci 遺伝子不検出であった。今回検出されたC. psittaci の免疫学的および分子遺伝学的解析については、 感染研で実施されている。なお、 検体サンプリング後に当該施設の屋内鳥すべてにテトラサイクリン系抗菌薬の投薬を実施し、 投薬前にC. psittaci 遺伝子が検出された鳥については、 投薬終了後約3週間の時点での、 陰性化を確認した。現在、 投薬前に陽性であった鳥を中心に治療数ヵ月後での経過観察を予定している。

今回の当該施設でのオウム病集団発生にはいくつかの要因が考えられた。まず、 当該鳥展示施設には常駐する獣医師がいなかったことに加え、 施設全鳥の個体識別や健康管理等の個体管理が不十分であった。特に、 外部施設から搬入された鳥の検疫や病鳥の治療、 隔離が適切に実施されておらず、 C. psittaci を蔓延させる原因になったと考えられた。次に、 当該施設にはC. psittaci を施設空間内へ滞留させないために、 開放系での展示が可能な窓のある施設(W室、 T室、 P室、 BY室、 S室)があった。しかし、 11月中旬以降平均気温10℃以下の日がみられるようになり、 窓を閉め閉鎖系(T室とP室、 BY室)になった可能性があった。さらに、 清掃や室内循環型空調および大型除湿機使用等の要因も相乗し、 施設空間内へC. psittaci が拡散・滞留したものと考えられた。しかし、 職員や来園者へのC. psittaci 感染に関わる直接的な原因(感染源)についてはいまだ特定されていない。

今回のオウム病集団発生事例から再発防止策を検討すると、 まず施設に展示する鳥は健康体であることが必須であり、 また病鳥への即時対応と病気の蔓延防止が求められる。しかし、 一部無症状の鳥もC. psittaci を保有し、 時に排菌することから、 鳥からのC. psittaci の感染リスクをすべて無くすことはできない。そこで、 上述の発生要因等を排除する種々の対策は無論、 施設全職員へのオウム病の知識と防疫対策の教育や、 さらには来園者についても、 オウム病に関する啓発を行う必要がある。さらに、 今後集団発生を早期に探知し、 適切な対応を取るために施設職員や来園者、 施設鳥の情報を集約した形でのサーベイランスの実施が必要と考える。

島根県保健環境科学研究所 田原研司 板垣朝夫
島根県松江健康福祉センター 新田則之他7名
島根県健康福祉部薬事衛生課 村下 伯 足立 行
岐阜大学 道越小雪 福士秀人
国立感染症研究所
中島一敏 松井珠乃 大山卓昭 岡部信彦 小川基彦 岸本寿男
岡山大学 松本 明

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