鳥からのクラミジア検出法についての検討

(Vol.23 p 249-249)

オウム病の原因検索として、 鳥のChlamydia psittaci (C. psittaci )の調査は重要である。通常、 鳥におけるC. psittaci 感染の有無の確認は、 鳥を解剖しその臓器から、 分離培養、 抗原検出法、 遺伝子検出法などの種々の検出法によって行われる。生きた状態での検査は排泄物(以下糞便)や分泌物、 また総排泄腔のスワブからC. psittaci を検出する方法がある。

しかし、 実際にはこれらの検体からの分離培養やPCRは煩雑で容易でなく、 迅速性に欠ける。また蛍光抗体法も判定が困難で実用的ではない。一方、 これまでに人のクラミジア感染症の診断に使用されている属抗原検出キットを鳥検体に利用した成績がいくつか報告されており、 有用とするものも見られる1,2)。今回、 島根県内の鳥展示施設におけるオウム病集団感染事例の発生を受けて、 迅速に鳥のC. psittaci の実験室内検査を実施するために必要な検体採取方法および検査方法について若干の検討を行った。今回国内C鳥展示施設の協力が得られたため、 鳥のクラミジア陽性率の検討を行うとともに、 鳥からの種々の検査法の比較検討を治療前後で行った。

C施設で飼育している鳥の一部を抽出し、 健常インコ類40羽について、 総排泄腔スワブ40検体と糞便25検体(個体識別無し)を採取した。検出法はクラミジア属抗原を検出する2つの市販キット、 クリアビュー(免疫クロマトグラフィー法:関東化学)とイデイアPCE (酵素抗体法:協和メデックス)と、 C. psittaci 遺伝子の検出については種特異的プライマーを用いてPCR法で行った。それぞれのキットは取り扱い書に準じて測定を行った。治療は検査後、 オキシテトラサイクリン(10mg/羽)を18日間液体飼料に入れて全羽に経口投与し、 投与終了2週間後に再検査を行った。

表1に示すように、 治療前の総排泄腔スワブのPCRでは10/40(25%)陽性であったが、 2キットの陽性率は、 それぞれクリアビューが3/40(7.5%)、 イデイアPCEが3/40(7.5%)と低かった。またこれらのPCRとの陽性一致率も、 クリアビューでは0/10検体(0%)、 イデイアPCEで1/10検体(10%)のみと低かった。陰性一致率はそれぞれクリアビューでは27/30検体(90%)、 イデイアPCEで28/30検体(93%)であった。一方、 糞便のPCRでは2/25(8%)と、 総排泄腔スワブに対して陽性率は低かった。2キットの陽性率は、 それぞれクリアビューが5/2520%)、 イデイアPCEが1/25(4%)であったが、 これらのPCRとの陽性一致率は、 クリアビューで0/2検体(0%)、 イデイアPCE で1/2検体(50%)、 陰性一致率はそれぞれクリアビューでは20/23検体(87%)、 イデイアPCEで23/23 検体(100%)であった。

治療後の検査では表1のようにスワブのPCR、 イデイアはすべて陰性化したが、 クリアビューでは5/38(13%)陽性検体が見られ、 非特異反応による偽陽性が考えられた。また、 糞便については個体識別ができないことから、 治療後の検査は行わなかった。

以上の成績から、 鳥からの検体は総排泄腔スワブに比べ糞便からの検出率は低く、 スワブがより確実に検出できるものと思われた。市販のクラミジア抗原検出キット、 クリアビューは、 PCRとの陽性、 陰性一致率ともに低く、 現状の利用法ではいずれも鳥からのクラミジア抗原検出スクリーニングとしては問題があり、 今後、 検体処理法などの検討とともに使用感度や特異性を上げる方法を検討する必要がある。

治療によるクラミジア陰性化は、 治療後のスワブのPCRですべて陰性となったことから、 充分期待できると思われたが、 今後さらに経過観察を行う予定である。

参考文献
1. T. Hagiwara, et al., Prog. Med., 12: 1007-1010, 1992
2. M.M. Wood and P. Timms, J. Clin. Microbiol., 30: 3200-3205, 1992

国立感染症研究所・ウイルス第一部
小川基彦 蔡 燕 志賀定祠 アグス・セティヨノ 岸本寿男 倉根一郎

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る