ケベック州Nunavikは最北端の行政地区であり、 人口1万人の90%がイヌイットで、 約半数は20歳未満、 年間平均275の出生が報告されている。この地区においては呼吸器感染が蔓延しており、 1999〜2000年の肺炎による入院は全ケベック州(4.2/1,000)の5倍で、 人口1,000人当たり23.8例である。内訳として肺炎球菌が最も多く、 平均して年間に人口10万当たり54例の報告があり、 これも全体の約3倍と高い。1997〜2001年の間に、 侵襲性の高い肺炎球菌の株が22件分離されている。同菌による耳炎の後遺症で子供たちの25%が5歳の時点で聴力低下をきたすなど、 肺炎球菌は大きな問題となっている。1990年前半に一度、 予防接種のプログラムが実施されたが、 全体の接種率はあまり高くなかった。
2000年11月に急性肺炎の集団発生がNunavik地区から報告された。全年齢群が感染し、 1歳未満と65歳以上が最も大きな影響を受けた。若年成人を中心とした成人(20〜64歳)における発症率が40%と高率であった点が注目された。84人の症例から28の肺炎球菌が分離され、 10株が血清型1型で、 パルスフィールド・ゲル電気泳動パターンがNunavikの同血清型の患者から分離されている型と同一であったが、 モントリオールなどの地区における血清型1型とは異なっていたことから、 地域特異性のある病原性の高い株がこのイヌイットの人々の間に蔓延している可能性が考えられた。
イスラエルからの報告を基に、 23価の多価ワクチンを用いて、 Nunavikの5歳以上の全人口を対象としたワクチンキャンペーンが2002年4月から始まり、 6月に終わった。さらに、 7価のワクチンを用いて、 新生児を対象とした定期接種と5歳未満の児童を対象としたキャッチアップ・キャンペーンも同時に開始された。これらの効果は、 肺炎球菌感染症、 一般呼吸器感染、 耳炎とこれらの後遺症などの観点から、 今後注意深く検討していく必要がある。また、 現行の7価ワクチンは血清型1型を含んでおらず、 現在開発中の9価、 11価ワクチンは含んでいることから、 これらをできるだけ早く導入することが今後の課題となるであろう。
(Canada CDR、 28、 No.16、 2002)