1971〜2000年における破傷風の疫学−イタリア

(Vol.23 p 259-259)

最近50年間の破傷風に対する大規模な予防接種や、 創傷ケアの向上などの公衆衛生学的アプローチの変化が、 先進国における破傷風の疫学像を変化させてきた。新生児における破傷風が消失し、 他の年齢層においても報告数の大きな減少がみられている。

イタリアにおいても1938年に従軍者への予防接種が始まり、 1963年に小児、 ハイリスクな領域の労働者、 スポーツ選手らへ接種が広がり、 1968年には1歳未満への小児定期予防接種が開始された。破傷風トキソイドを小児定期予防接種に導入する前の1955〜1963年の間の罹患率は、 人口10万人当たり1.4であったが、 今回の破傷風報告システム評価の対象とした期間の初めの1970年代には、 人口10万人当たり0.5と約3分の1に減少し、 そして1990年代には0.2とさらにその半分以下になっている。特に15〜24歳の年齢群では、 この期間に95%の罹患率の減少が認められている。同時期における致命率も、 68%(70年代)から39%(90年代)へと大きな減少をみており、 24歳未満の死亡は1991年以降1997年まで報告されていない。

近年罹患率の低下が止まり、 イタリア全土で毎年100例前後の報告がある。これは、 人口10万対でEU各国中最も多く、 また米国と比べても約10倍である。予防接種の機会に乏しかった65歳以上の女性が90年代以降の症例の76%を占めており(70年代には60%)、 これを裏付けるように、 80年代の血清学的サーベイによると、 51歳以上の人口では破傷風抗体価が低く、 特に女性では61〜70歳人口の21〜55%に感受性があると報告されている。逆に、 25歳未満の若年成人においては男性の罹患率が高いが、 小児定期予防接種の受診率に違いがないことから、 若年成人男性に傷害を受けやすい行動が多いためではないかと考えられる。交通事故がこの年齢、 性別群に多いことからも、 この仮説は裏付けられる。また、 北部と中央イタリアの罹患率は、 1970年代より常に南部イタリアの約2倍あり、 致命率も高い。しかしながら、 この両地区はイタリア全土の平均よりワクチン接種率が高く、 感受性人口が南部より多いことは考えにくく、 逆に南部イタリアからの報告漏れが多いことは、 他のワクチン予防可能疾患である麻疹や百日咳などでも良く知られている。従って、 南部地区の患者数はかなり過少に報告されている可能性が強く、 報告率の向上が今後の課題である。

破傷風は人から人へ伝染するものでなく、 ワクチン接種率の向上による集団免疫効果が非常に期待できる感染症ではないが、 個々人のワクチン接種により予防できる疾患であるから、 現在1歳時までの3回の小児定期予防接種が95%と高率であるのを維持しつつ、 65歳以上の女性のようなリスクグループにターゲットを絞った積極的な予防接種の推奨と、 高齢者の追加接種の推奨を行っていく必要がある。また、 サーベイランスの強化によって、 新しいリスクグループを発見することにも努めなければならない。

(Eurosurveillane Monthly, 7, No.7-8,103-110, 2002)

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