A型肝炎ウイルス(HAV)による食中毒2事例について−東京都

(Vol.23 p 273-273)

2002年4月に、 握り寿司ならびに中国産ウチムラサキ(通称;大アサリ)の喫食が原因と推定されたA型肝炎集団発生2事例を経験したので、 その概要について報告する。

第1事例:2002年3月4日〜8日に江東区内の会社の会合で同区の寿司店から出前された「にぎり寿司」の喫食者、 および同寿司店を訪れ喫食した22名が、 3月25日〜4月9日にかけて38〜39℃の発熱、 倦怠感、 黄疸、 吐き気などの肝炎症状を呈した事例である。発症者22名中17名の糞便または血清を材料とし、 各材料よりウイルスRNAを抽出、 BR-9, BR-5, BR-6プライマーを用いたsemi-nested-PCR法により(J. Med. Virol. 63:88-95, 2001)、 HAV遺伝子のVP1-P2A領域を増幅し、 次いでdirect-sequencing法により塩基配列を決定、 うち 168bpの塩基配列について解析を行った。その結果、 発症者17名由来のウイルスはすべて同一の塩基配列を示し、 すべて1A型に型別された。さらに、 この寿司店の調理従事者2名もA型肝炎を発症しており(うち1名は3月13日に肝炎発症確認)、 塩基配列も喫食者由来の配列と一致したことから、 従業員から寿司食材または調理器具を介したHAVの単一曝露が主原因であると推定された。

第2事例:2002年3月19日に江戸川区内の飲食店で会食料理(大アサリ紹興酒風味蒸しを含む)を喫食した86名中44名が、 3月20日〜22日にかけて腹痛、 下痢、 吐き気、 嘔吐等の食中毒症状を呈した症例である。検査の結果、 ノーウォーク様ウイルス(NLV)による集団食中毒事例であることが判明した。しかし、 約1カ月後の4月18日〜20日にかけて、 2名が発熱、 倦怠感、 下痢、 腹痛などの症状を呈し、 検査の結果、 A型肝炎に罹患していることが判明した。また、 飲食店従業員1名および別の日に同飲食店で会食した集団のうち2名も、 4月9日〜22日にかけてA型肝炎を発症した。これら患者5名の糞便および血清から検出されたHAV遺伝子を解析した結果、 得られた株はすべて1A型のウイルスであったが、 塩基配列は異なり、 さらに3種の亜型(b:3名、 c:1名、 d:1名)に分かれていることが判明した。

第1事例および第2事例で得られたHAVを比較検討した結果、 遺伝子の相同性は95.2〜99.4%であった()。また、 系統樹解析では、 第1事例のHAV株(a)と第2事例の(c)、 (d)は同じクラスタに分かれたが、 (b)は別のクラスタに分類された()。

以上の遺伝子解析結果から、 第1事例は同一感染源からの単一曝露、 第2事例はHAV汚染食品からの曝露の可能性が考えられた。HAVは、 潜伏期が約1カ月と長いため、 原因食が保存されておらず、 感染経路が特定できないばかりでなく、 集団発生か散発事例かの判別さえ困難である。今回2事例から得られたHAVの分子疫学的解析結果から、 本法が食中毒事例の解析に極めて有効な手段であることが示唆された。

東京都立衛生研究所・微生物部
貞升健志 新開敬行 中村敦子 山崎 清 村田以和夫 諸角 聖
東京都健康局食品監視課
田崎達明 荒井美子 清水永之 山野美代子
第1事例:江東区 品川区 墨田区 練馬区 荒川区各保健所
     神奈川県衛生研究所 川崎市衛生研究所
第2事例:江戸川区保健所 葛飾区保健所 千葉市

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る