輸入生鮮魚介類からのA型肝炎ウイルス検出状況

(Vol.23 p 274-275)

平成12年の検疫所業務年報によると、 わが国の2000年の輸入海産物は貝類136,000tで、 そのうち二枚貝が129,000t、 巻貝類が7,000t、 エビ類は157,000tと膨大な量が輸入されている(表1)。二枚貝は東南アジアから、 エビ類はアジア全般から多く輸入され、 これらの輸出国はA型肝炎ウイルス(HAV)の濃厚汚染地域でもある。輸入魚介類におけるHAVの検査は輸出国ならびにわが国においてもほとんどなされていない。

われわれは主にアジア地域からの生鮮魚介類からのウイルス学的安全性の調査・研究を行っており、 2001年度のHAV検出状況について報告する。

材料と方法
材料:2001年4月〜2002年3月の間に、 市場に搬入された輸入魚介類を対象とした。二枚貝は中国産122件、 韓国産84件、 北朝鮮産34件、 アメリカ産4件、 エビ類は主にアジア地域からの24件を用いた。

方法:貝類は中腸腺を1〜5g、 エビ類は頭を除いた重量300gから腸管部分を取り出し、 ホモジナイズした後PBSで10%乳剤とし、 10,000rpm、 20min遠心後、 さらにその上清35,000rpm 、 3h超遠心し、 そのpelletを蒸留水(DNase、 RNase free)に再浮遊し、 RNA抽出に用いた。RNA抽出はQIAamp Viral RNA Miniキット(QIAGEN)を用いて抽出し、 DNase I(TaKaRa)処理後、 random hexamer(Amersham Pharmacia)を用いてSuper ScriptTM II RT(Invitrogen)で逆転写し、 cDNAを作製した。1st PCRではHAV+2799プライマー(5'-ATT CAG ATT AGA CTG CCT TGG TA-3')とHAV-3273(5'-CCA AGA AAC CTT CAT TAT TTC ATG-3')、 nested PCRではHAV+2907プライマー(5'-GCA AAT TAC AAT CAT TCT GAT GA-3')/HAV-3162(5'-CTT CYT GAG CAT ACT TKA RTC TTT G-3')を用いて行った1)。PCR で目的としたバンドが見られたときにはダイレクトシークエンスを行い確認した。

リアルタイムPCRはHAV+449プライマー(5'-AGG GTA ACA GCG GCG GAT AT-3')/HAV-557プライマー(5'-ACA GCC CTG ACA RTC AAT YCA CT-3')を、 プローブはHA+482-P-TET(5'-TET-AGA CAA AAA CCA TTC AAC RCC GRA GGA C-TAMRA-3')を用い、 ABI PRISM7700で行った2)。

成績および考察:輸入二枚貝244件中3件(1%)からRT-PCR法でHAVが検出された。その内訳は中国産のハマグリ2件、 ウチムラサキ(通称;大アサリ)1件であった。なお韓国産および北朝鮮産二枚貝、 およびエビ類からは検出されなかった(表2)。

わが国では血清疫学成績から過去約50年の間、 HAVによる大規模な集団発生はなかったと考えられている3)。2001年の感染症発生動向調査(2002年4月2日現在)によると、 A型肝炎患者は481名発生した。過去の調査から推察すると、 約80%の人は海外渡航歴がなく、 感染源不明である。実際に僅かではあるが食品を介してHAVが侵入してきていることが本調査で示された。

HAVは潜伏期が平均1カ月と長く、 原因食材の特定は極めて困難であり、 1997(平成9)年以降でHAVによる食中毒事例の原因食材が特定できたのはわずかに中国産ウチムラサキによる2事例のみである4, 5) 。今後、 海外渡航歴がなく、 周囲からの二次感染も考えられないHAV患者発生に際しては、 過去2週間〜6週間における輸入食品、 特に魚介類の喫食調査が必要であるといえる。

まとめ:HAVはわが国に輸入魚介類を介して僅かではあるものの侵入してきている。HAV感染の防止に厚生労働省は検疫所での検査体制を整えているが、 輸入量が膨大であり、 すべてに対応するのは困難である。輸入二枚貝によってノーウォーク様ウイルスによる集団発生も起きており4, 6) 、 二枚貝を食する際には沸騰させるなど、 中心部まで加熱するように衛生教育することが感染防止に重要である。

本研究は厚生労働省科学研究費補助金生活安全総合研究事業の補助を受けて行われた。

参考文献
1)戸塚敦子、 肝炎ウイルス検査マニュアル:A型肝炎ウイルスのRNA のRT-PCR法による検出法、 国立感染症研究所編(印刷中)
2)西尾 治他、 第76回日本感染症学会抄録、 p.251、 2002
3)Kiyohara T. et al, Jpn. J. Med. Sci. Biol. 50: 123-131,1997
4)古田敏彦他、 病原微生物検出情報 23: 119-120、 2002
5)新開敬行他、 第23回日本食品微生物学会抄録、 p.84, 2002および本号p.3
6)新川奈緒美他、 病原微生物検出情報 22: 222-223、 2001

国立感染症研究所・感染症情報センター 西尾 治 秋山美穂 長谷川斐子
神奈川県衛生研究所 古屋由美子
愛媛県立衛生環境研究所 大瀬戸光明
静岡県環境衛生科学研究所 杉枝正明

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