2カ所の保育園でほぼ同時期に発生した腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例−札幌市

(Vol.23 p 290-291)

2002年7月中旬〜下旬のほぼ同時期に市内の近接した2カ所の保育園において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11、 VT1産生の集団感染が確認された。

A事例:7月10日、 市内医療機関から女児(2歳)の3類感染症発生届け出(EHEC O26 VT1産生)があり、 患者および患者家族の検便を行うとともに、 患者が通園するA保育園の園児の健康調査、 園内のふきとり検査および消毒等の指導を行った。給食施設等のふきとり検査からEHEC O26は検出されなかった。7月15日、 医療機関を受診していた患者と同級の女児(2歳)の患者発生届け出があった。このため、 届け出のあった園児を除く全園児156人、 全職員25人および家族42人の検便を行ったところ、 園児10人(うち有症者3人)、 職員2人(無症状)からEHEC O26:H11 VT1産生が検出された。A保育園は7月20日〜28日まで自主的に休園した。7月18日〜25日までの間、 散発的に園児4人(うち有症者2人)からEHEC O26が検出されたが、 7月25日以降、 毎週1回5週連続の検便において新たな陽性者は認められず、 初発後48日目の8月27日をもって陽性者全員の陰性が確認された。検便におけるEHEC O26陽性継続日数は平均12.2日間、 最短5日間、 最長40日間であった。A保育園における感染者数は、 発端園児2人を含み園児16人(うち有症者7人)、 職員2人の計18人であった。

B事例:7月24日、 市内医療機関から男児(1歳)の3類感染症発生届け出(EHEC O26 VT1産生)があり、 患者および患者家族の検便を行うとともに、 患者が通園するB保育園の健康調査、 衛生指導および給食施設等のふきとり検査を行った。また、 B保育園には複数の有症者が確認されたため、 届け出のあった園児を除く全園児111人、 全職員25人および家族67人の検便を行った結果、 園児29人(うち有症者12人)および家族5人からEHEC O26:H11 VT1産生が検出された。また、 施設のふきとり検査の結果、 組み立て式簡易プールのボルト取付部からEHEC O26:H11 VT1産生が検出された。B保育園は、 7月30日〜8月9日まで自主的に休園した。その後、 8月9日に新たに園児1人(有症者)からEHEC O26 VT1産生が検出されたが、 8月13日以降、 毎週1回4週連続の検便において新たな陽性者は認められず、 初発後44日目の9月6日をもって陽性者全員の陰性が確認された。B保育園におけるEHEC O26陽性継続日数は平均16.1日間、 最短10日間、 最長32日間であった。B保育園における感染者数は、 発端園児1人を含み園児31人(うち有症者14人)、 園児の家族5人の計36人であった。

疫学調査の結果、 患者の発生が一時期に集中していないことから、 A、 B両保育園とも、 食品などによる単一曝露である可能性は低く、 感染者から園内で感染が蔓延した可能性が高いと考えられた。両園の地理的関係が約2kmの距離にあること、 パルスフィールド・ゲル電気泳動法による遺伝子解析により両園で検出された菌株が極めて類似していたことなどから、 共通の感染源の存在が示唆されたが、 特定するには至らなかった。また、 保育園における感染蔓延の要因については、 園児の衛生管理や異年齢交流、 プール遊びなどが複雑に関わっていると考えられた。

9月11日、 すべての陽性者の陰性化を確認したこと、 また、 その後新たな発症者が見られないことから、 A、 B両保育園におけるEHEC O26集団感染の終息を確認した。

細菌検査は、 分離培地にラムノース・マッコンキー培地(RMAC)およびセフィキシム・亜テルル酸カリウム加ラムノース・マッコンキー培地(CT-RMAC)を用い直接培養とmodified Escherichia coli Broth(mEC培地)による42℃18時間増菌培養を併用した。本事例にかかわる検体数は893検体にのぼった。

衛生研究所では、 今回の経験を踏まえ、 今後同様な集団発生事例における大量検体を効率的かつ感度および精度とも良好に検査を行うため、 A事例 415検体の検査結果を基に、 1)EHEC O26分離におけるRMACおよびCT-RMACの比較、 2)mEC培地による42℃18時間増菌培養の効果、 3)CT-RMAC にセロビオース(CLB)を添加することによる選択性の向上について検討を加えた。その結果、 CT-RMACは直接培養で18/18検体、 増菌培養で25/26検体と検出率が高く、 EHEC O26分離培地として選択性に優れていることが確認された。RMACはそれぞれ7/18検体、 5/26検体であった。また増菌培養でのみ分離されたものが9/27検体あり、 CT-RMACによる直接培養とmEC 培地による増菌培養の併用により検出感度の向上が認められた。また、 直接培養でCT-RMAC から釣菌した定型集落のうち確認試験で陰性となった株の割合は193/261株(約74%)と極めて高く、 このことは検出精度および検査効率の低下にもつながると考えられた。そのため容易に集落を鑑別でき選択性をさらに高めた培地が必要であると考えた。確認試験で陰性となった株はEnterobacter cloacae Enterobacter asburiae Klebsiella pneumoniae であり、 EHEC O26はCLB陰性であるのに対し、 これらはCLB陽性であることから、 CT-RMACにCLBを添加した培地を試作し、 便31検体、 保存食11検体および確認培養で陰性となった菌株23株を用い菌の生育状態を検討した。その結果、 E. cloacae E. asburiae K. pneumoniae は赤色混濁集落を形成し、 白色集落を形成したEHEC O26と容易に識別され、 EHEC O26の検出精度および検査効率を向上させることが可能と考えられた。

札幌市衛生研究所 赤石尚一 大谷倫子
札幌市保健所   築島恵理

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