2002(平成14)年6月および8月に保育園において4件の腸管出血性大腸菌(以下EHEC)による集団感染が発生したので報告する。その概要については表1のとおりである。なお、 VTはPCR法およびRPLA法で確認した。
事例1:2002年6月21日、 1歳男児のEHEC O111感染症患者の届け出が管轄保健所にあった。管轄保健所は患者家族7名と患者が通園している保育園の職員30名、 保育園児159名、 合計196名の検便を行った。その結果、 患者家族2名、 職員2名、 保育園児29名からEHEC O111が検出された。
また、 保育園のふきとり13件、 保存食7件、 初発患者宅井戸水1件の検査を行ったが、 EHEC O111は検出されなかった。
6月23日に菌陽性の職員および保育園児の家族124名の検便を行った結果、 7家族9名からEHEC O111が検出された。
その後の経過確認のため、 7月8日〜9日に保育園職員、 園児および菌陽性園児家族(希望者)198名の検査を行った。その結果、 前回菌陽性であった園児3名の他、 今回新たに園児2名およびその家族2名からEHEC O111が検出され、 合計47名(初発患者含む)の感染者数となった。また、 前記園児家族の菌陽性者が別の幼稚園に通園していたため、 その幼稚園の職員および園児250名の検便を行ったが、 その結果は全員が陰性であった。なお、 保育園および家族の菌陽性者と有症者は表2のとおりであった。
検査は、 分離培地としてCTソルボースマッコンキー培地を使用した。直接法と増菌法を行い、 増菌法はTSB37℃6時間培養後、 免疫磁気ビーズ法を実施した。疑わしい1コロニーをO111ラテックスで凝集を確認後、 PCR法でVTを確認した。また、 上記方法で陰性となった検体から疑わしいコロニーをTSBで純培養後、 100℃1時間熱処理し、 死菌液とO111血清をマイクロプレートで反応させ、 凝集を確認した。凝集したものはPCR法によりVTを確認した。
検出された47菌株の性状は、 すべてO111:H-でVT1産生であった。また、 3菌株(初発患者を含む)についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った結果は同一パタ−ンであった。
管轄保健所は衛生指導を随時行ったが、 6月27日の保育園主催の説明会においても経過説明と二次感染予防に関する注意を職員と保護者に対して行った。
また、 7月8日に園児全員とその家族を対象に、 6月1日からの症状(下痢・腹痛・嘔吐・発熱)および医療機関の受診についてのアンケート調査を行ったが、 6月21日以前に下痢症状があり、 医療機関を受診していた園児および家族は数名いたが、 医療機関の検査ではEHECは検出されなかった。その後、 保健所では8月1日に管内の保育園、 幼稚園、 福祉関係者に対し、 「腸管出血性大腸菌感染症の予防研修」を実施した。
事例2:2002年8月12日、 2歳男児のEHEC O157感染症患者の届け出が管轄保健所にあった。患者は8月8日から血便、 下痢、 嘔吐の症状があった。管轄保健所は患者家族3名、 接触のあった親戚3名、 患者が通園している託児所の職員4名、 園児23名、 および建物内にあって接触が疑われた他の事務所の従業員4名、 合計37名の検便を行った。その結果、 親戚1名および園児2名からEHEC O157が検出された。親戚の子供は8月13日から下痢、 腹痛の症状があり、 園児2名は無症状であった。8月14日に、 菌陽性園児の家族の検便を行ったが1名からEHEC O157が検出された。
8月26日に陰性確認および再検査を託児所職員4名と園児23名について行ったところ、 新たに園児1名からEHEC O157が検出された。その園児の家族の検便を行ったが陰性であった。
検出された6菌株の性状は、 すべてO157:H7でVT1+VT2産生であった。
託児所は1階が2歳以下、 2階が3、 4歳児のクラスになっており、 菌陽性園児のうち2名(初発患者を含む)は1階のクラス、 他の2名は2階のクラスであった。夕方に人数が減ってくると1階の部屋に集められたことは感染拡大の要因の一つだと思われる。保健所は便の付いたおむつを取り扱った後の手指の消毒など、 衛生管理の徹底を指導した。
事例3:2002年8月13日、 1歳男児のEHEC O26感染症患者の届け出が管轄保健所にあり、 患者は8月8日から下痢の症状があった。管轄保健所は患者家族4名、 患者が通園している保育園の職員10名、 保育園児52名、 保育園のふきとり8件、 井戸水1件、 ハエ1件および食材39件の検査を行った。その結果、 家族1名(患者と同保育園児)、 園児6名および患者宅の洗濯機ネットごみからEHEC O26が検出された。菌陽性保育園児のうち、 2名が8月10日から、 他の3名が8月13日から下痢の症状があった。さらに、 菌陽性保育園児の家族検便を行った結果、 2家族2名からEHEC O26が検出された。この2名は無症状であった。菌陽性者の陰性確認検査を8月20・22・28日に行ったが、 すべて陰性を確認した。
9月3日に保育園職員12名および園児53名の再検査を行ったところ、 8月22日に採便し、 26日に陰性が確認された園児1名からEHEC O26が検出された。その園児の家族の検便および患者宅のふきとり検査を行ったがすべて陰性であった。
検査法はCTラムノース加マッコンキーベース培地、 E-coli O26-F「生研」、 O26血清(デンカ生研)を使用し、 O111検査法(事例1)と同手順で行った。
検出された11菌株の性状は、 すべてO26:HUTでVT1産生であった。
疫学調査の結果、 保育園のトイレの手洗いに消毒液、 石鹸が整備されていなかったことから感染が拡がったと思われる。また、 下痢をしている園児を保育園が預かる際に医療機関受診を奨めていれば感染の拡大を防止できたのではないかと思われる。このため、 保健所は保育園に対して衛生対策を行うよう指導した。その後、 保健所の指導により8月14日〜16日までの盆休みに加えて19日までの6日間を休園したことによって、 さらなる拡大を防止することができた。
事例4:2002年8月15日に2歳男児のEHEC O157感染症患者の届け出が管轄保健所にあった。患者は8月10日から下痢、 血便の症状があった。管轄保健所は患者家族6名、 接触のあった親戚の子供1名、 患者が通園している保育園の職員22名、 保育園児67名、 患者宅のふきとり4件、 および保育園のふきとり6件の検査を行った。その結果、 家族4名、 親戚の子供1名、 園児4名からEHEC O157が検出された。菌陽性家族のうち、 2名が8月12、 13日から、 親戚の子供は8月15日から、 保育園児2名が8月11日と16日から下痢、 腹痛など(保育園児1名は血便もあった)の症状があった。8月19日に菌陽性保育園児の家族5名および前回未検査の園児55名の検便を行った結果、 全員が陰性であった。菌陽性者の陰性確認検査では8月30日までにすべて陰性を確認した。9月9日に保育園職員21名および園児129名の再検査を行ったが陰性であった。
検出された10菌株の性状は、 すべてO157:H7でVT2産生であった。
以上の4事例は感染原因・感染経路の特定はできなかった。今回の保育園のEHECによる集団発生は陰性確認後、 保育園からの依頼もしくは保健所の判断で保育園職員および園児(希望がある場合は家族も)の検便を再度行っている。その結果、 4事例のうち、 3事例から新たに感染者が見つかっている。再検査により、 初動調査時に排菌量が少なかったケース、 初動調査後の感染と思われるケ−スおよび再排菌者を発見することできた。これらの事例から保育園等低年齢の集団でEHECが発生した場合は、 個々の陰性確認後、 集団の再検査を実施することが重要であることを痛感した。
また、 佐賀県において1996(平成8)年から発生したEHEC感染症の初発患者が保育園児であったのは24件で、 そのうちの12件は園児が通っている保育園で集団発生している。このことは、 保育園におけるEHECに対する衛生教育が重要であることを示している。
佐賀県衛生薬業センター
増本喜美子 森屋一雄 隈元星子 藤原義行 山口博之
佐賀県佐賀中部保健所 検査室
佐賀県唐津保健所 保健予防係 衛生対策課 検査室
佐賀県伊万里保健所 保健予防係 衛生対策課
佐賀県杵藤保健所 感染症対策係 衛生対策課 検査室