2002/03シーズンインフルエンザ抗体保有状況調査速報−第3報(2002年12月2日現在)

(Vol.23 p 309-310)

厚生労働省感染症流行予測調査事業では、 都道府県ならびに都道府県衛生研究所と協力して、 予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、 本年度もインフルエンザ流行シーズン前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、 速報として報告されたデータから年齢群別抗体保有状況、 近年3年間の年次比較について掲載する。

本年度のインフルエンザHI抗体測定には、 次の4抗原が使用された。このうち1、 2、 3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。

 1.A/New Caledonia/20/99(H1N1)
 2.A/Panama/2007/99(H3N2)
 3.B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)
 4.B/Shenzhen/407/2001(山形系統株)

2002/03シーズンワクチン株選定の経緯については、 本月報Vol.23、 No.10「平成14年度(2002/03シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」を参照頂きたい。

血清検体

採血時期:原則2002年7〜9月であるが、 当該シーズンのインフルエンザの流行が終息していることが確実な場合は、 この時期以前でも可としているが、 少なくとも5月以降であることと規定している。

2002(平成14)年12月2日現在、 秋田、 熊本、 神奈川、 高知、 山形、 福島、 富山、 静岡、 山口、 長野、 鹿児島、 佐賀、 愛知、 宮崎、 山梨、 愛媛、 北海道、 新潟の18県から合計4,477検体分の調査成績が寄せられた。年齢群別の検査数は、 0〜4歳:504例、 5〜9歳:493例、 10〜14歳:467例、 15〜19歳:442例、 20〜29歳:550例、 30〜39歳:580例、 40〜49歳:510例、 50〜59歳:513例、 60歳以上:418例であった。

A/New Caledonia/20/99(H1N1)に対する抗体保有率:有効防御免疫の指標と見なされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、 5〜19歳では約40〜50%であったが、 0〜4歳群、 20代群では20%前後、 30歳以上の年齢層ではすべての年齢層で10%前後と低い(図1上段)。

A/Panama/2007/99(H3N2)に対する抗体保有率:5〜9歳群の抗体保有率は70%弱で最も高く、 その後50代まで年代とともに抗体保有率は減少していた。10代の抗体保有率は約55〜65%であったが、 0〜4歳群は約25%、 20〜40代群は約20%、 50代群は約10%と低い。60歳以上群では30%以上の人が抗体を保有していた(図1下段)。

B/Shandong/7/97(Victoria系統株)に対する抗体保有率:最も抗体保有率が高かった20代群でも20%弱であり、 15〜19歳群と30代群で約10%、 その他の年齢群ではすべて5%以下であり極めて低い。0〜4歳群、 50代群ではほとんどの人が抗体を保有していない(図2上段)。

B/Shenzhen/407/2001(山形系統株)に対する抗体保有率:本株は、 Victoria系統株である今年のワクチン株B/Shandong/7/97と異なり、 山形系統株である。本株は前シーズンの主流行株とは遺伝的に異なる系統に入る変異株であることから、 調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率はワクチン株であるB/Shandong/7/97と同程度に低く、 最も抗体保有率が高かった10代群でも20%弱、 20代群で8%、 その他の年齢群では1〜5%である(図2下段)。

コメント:近年3年間の抗体保有率を比較すると、 A型に関しては昨年度と大きな変化はないが、 B型の保有率の低さは両系統株ともに際立っている。

A/H1N1(ソ連)型は、 抗体保有率のピークが5〜9歳群から10代群にシフトし、 保有率は昨年、 一昨年の流行を反映して僅かながら上昇しているもののまだ十分とは言えない。特に成人層、 高齢者層は保有率が低い。乳幼児と20歳以上のすべての年齢群で抗体保有率が低いため今シーズンも引き続き注意が必要である(図3)。

A/H3N2(香港)型は、 昨年度とほぼ同様の抗体保有率であるが、 高齢者層に関しては昨年度より保有率は高い。ただし、 0〜4歳群、 20歳以上群については十分とは言えないことなどから、 今シーズンも引き続き注意が必要である(図3)。

B型については、 抗体保有率は極めて低く、 全年齢層でほとんどの人が抗体を保有していない状況である。ワクチン接種を積極的に受ける必要性があると考えられる。一方、 ワクチン株とは異なった系統の山形系統株に関しても、 Victoria系統株と同様に抗体保有率が低く、 B型インフルエンザの動向に関しては注意が必要である(図4)。

本速報は感染症情報センターホームページhttp://idsc.nih.go.jp/yosoku99/index.htmlで随時更新予定である。

国立感染症研究所・ウイルス第3部第1室(旧第1部・呼吸器系ウイルス室)
    同     感染症情報センター第3室(旧予防接種室)

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