2002年9月下旬、 兵庫県A市の某弁当配送業者製造の弁当喫食により食中毒が発生した。配送先の52グループ1,608名のうち、 24グループ253名が下痢・腹痛・発熱等の食中毒症状を呈した。我々は患者107名、 業者従業員26名の糞便を検索し、 44名(従業員1名を含む)からリジン陰性のEscherichia coli O25:HNMを分離した。
ELT-、 ESH-、 ESP-プライマー(宝酒造)を用いたPCR法により、 44株すべてがエンテロトキシンSTh単独産生株であった。12薬剤(ABPC、 CTX、 KM、 GM、 SM、 TC、 トリメトプリム、 CPFX、 FOM、 CP、 ST合剤、 NA)に対して全株がNA耐性を示した。代表2株を用いた諸制限酵素(Xba I、 Bln I、 Sfi I、 Not I、 Spe I)によるDNA切断産物のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンは、 Xba Iが鑑別上最も有効と判断された。本酵素により検討した13株は同一のバンドパターンを示した。
同時期(10月上旬)滋賀・福井両県でも、 滋賀県B市の某弁当業者製造の給食弁当の喫食により、 65グループ230名中75名が食中毒の症状を呈した。糞便20検体(有症12名、 従業員8名)のうち、 有症7名から上記と同一性状(リジン陰性、 NA耐性、 STh産生)のE. coli O25:HNMを分離した。兵庫代表1株と滋賀7株のPFGE上のバンドパターンは、 Xba I(図)および他の上記制限酵素による染色体切断で同一であった。兵庫県と滋賀県の両弁当業者は食材として、 生産あるいは製造元が共通である2種の食材を使用していた。恐らくこれら2者のいずれかが3県食中毒の原因食品と考えられる。
兵庫県立健康環境科学研究センター・感染症部 大嶌香保理 辻 英高 浜田耕吉
兵庫県龍野健康福祉事務所・検査室 谷邑寿美 久宝佳苗 前田新造
滋賀県立衛生環境センター 石川和彦 林 賢一
滋賀県長浜保健所 児玉弘美 橋本信代