給食従事者定期検査で同一人からSTEC O91 stx 1+が2カ月後に再検出された2事例について−秋田県

(Vol.23 p 323-324)

給食従事者の定期検査において志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O91 stx 1+が陽性となり、 翌月の定期検査では陰性であったものの2カ月後の定期検査において再びSTEC O91 stx 1+が陽性となった事例2事例の概要を報告する。

事例1図1に示すように、 Y保健所管内の幼稚園に勤務するAは定期検査で2002年7月26日にSTEC O91 stx 1+が検出された。その結果を受けて実施した家族などの検査結果は陰性であった。8月の定期検査ではSTEC陰性であったが、 9月14日に再び定期検査でSTEC O91 stx 1+が検出された。Aを担当した主治医は、 Aは妊娠初期にあったことから抗菌薬の投与は最少限とする方針であった。O91は市販血清がなく、 通常の検査機関では陰性化確認検査に対応できないことから、 Aの陰性化確認検査は当所において実施した。9月17日と18日は抗菌薬を投与せず検便を実施したがSTEC O91 stx 1+はどちらの検体も陽性であった。Aは就業制限された状況にあったことなどから、 主治医は9月19日からセフェム系抗菌薬を処方し、 Aは服用を開始したものの、 9月26日の検査までSTEC O91 stx 1+は陰性化しなかった。今回、 分離されたSTEC O91 stx 1+の薬剤感受性試験は実施されていなかった。そのため、 9月24日の検便から分離された菌について26日にドライプレートDP21を使用して薬剤感受性試験を実施し、 翌27日に得られた成績を担当保健所に送付した。担当保健所では当該成績を同日主治医に情報提供した。主治医は9月27日からホスホマイシンを処方した。その結果、 9月30日以降の検便はいずれもSTEC陰性となり、 菌の陰性化が確認された。7月26日に分離されたSTEC O91 stx 1+と9月14日に分離されたSTEC O91 stx 1+のXba Iパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンは同一であることが確認された。

事例2表1に示すようにO保健所管内の小学校に勤務するBから定期検査で2002年8月にSTEC O91 stx 1+が検出された。Bの家族はSTEC陰性であった。2002年9月の定期検査ではSTEC陰性であったが、 10月9日に再び定期検査でSTEC O91 stx 1+が検出された。分離株についてはDP21により薬剤感受性試験を実施し、 成績を担当保健所に提供した。その後、 Bにはホスホマイシンが処方され、 10月18日に医療機関で実施した検便を当所において検査した結果、 STEC陰性であることが確認された。

秋田県では1996年以降、 県の外郭団体である秋田県総合保健事業団で給食従事者の定期検査を受け付けている。検査方法は被検者の糞便の培養液についてPCRによりstx 保有株をスクリーニングする方法であり、 陽性となった培養液は当所に搬入されてSTECの分離・同定が実施される。今回の事例1、 2はいずれもこの方法によりSTEC O91 stx 1+が検出され、 翌月の定期検査においていったんSTEC陰性となった感染者が、 その翌月の定期検査で再びSTEC O91 stx 1+陽性となったという、 過去に例をみない特徴的な事例であった。いったん陰性化した菌が翌月再び検出された理由は不明であるが、 事例1においてPFGEパターンから7月と9月に分離されたSTEC O91 stx 1+の起源が同一であることが明らかとなったことから、 いったん検査法の検出限界以下まで腸内のSTEC O91 stx 1+の菌数が減少したものの、 その後再び検出感度以上の菌数に増加した可能性、 および感染者周辺に存在すると考えられる感染源から再感染した可能性などが考えられる。

STECの腸管定着因子にはeaeA 遺伝子と、 最近報告されたsaa 遺伝子が該当すると考えられているが、 今回分離されたSTEC O91 stx 1+はeaeA saa ともに陰性であった。それにもかかわらず、 事例1においては菌が約2週間継続して感染者から検出され続けたことは、 当該菌がeaeA saa 以外の定着因子を保有する可能性を示唆する事実として興味深い。

秋田県においては、 総合保健事業団で実施している給食従事者検査によりSTEC O91だけではなくO45、 OX3、 O103、 O145、 OX179など市販血清をスクリーニングに使用する方法では検出困難なSTECの感染者が確認されてきた。このような菌の感染者について菌陰性化の確認検査を実施する際、 市販血清を使用した検査では対応できない点が問題となる。事例1、 2いずれにおいても担当保健所にSTEC O91 stx 1+の検査方法の特殊性に関して情報提供をした。その結果、 事例1においては主治医と連携しながら担当保健所で陰性化確認検査用検体を感染者から採取し、 当所で検査を実施した。また、 事例2においては担当医療機関から当所に陰性化確認検査用検体が送付された。市販血清を使用した検査方法では対応困難なSTECに感染した場合、 担当保健所と主治医との密接な連携のもとで陰性化確認検査を実施することが重要と考えられた。

秋田県衛生科学研究所・微生物部細菌担当 八柳 潤 齊籐志保子 佐藤晴美

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