生カキによると推察される細菌性赤痢−佐賀県

(Vol.24 p 3-6)

2001(平成13)年11月頃から、 全国規模で発生した細菌性赤痢は国立感染症研究所のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の解析検査の結果、 生カキを原因とするdiffuse outbreakであった。佐賀県においても生カキによると推察される細菌性赤痢の集団発生3件31名、 散発3件、 計6件34名の発生があったので報告する。発生事例は表1、 患者の発症日の推移は図1に示す。

事例1:2001年11月22日に20歳の女性の届け出があった。患者は11月10日に生カキを摂食し、 15日から軟便が1日に1〜2回あった。管轄保健所が接触のあった家族および親戚(10名)について検便を行った結果、 患者の子供(4カ月)と祖母(67歳)が菌陽性であった。なお、 この2名は無症状であった。

事例2:2001年12月5日に20歳の女性の届け出があった。患者は11月28日に生カキ(他県から調査依頼のあった2業者のうちのK水産製造の製品)とカキフライを摂食し、 11月29日から頻回の水様便、 腹痛、 発熱(39℃)などの症状があった。家族3人の検便結果は陰性であった。

事例3:2001年12月10日に50歳の男性の届け出があった。患者は、 11月28日に生カキ、 12月1日にカキフライカレ−を摂食し、 12月1日から下痢、 腹痛の症状があり、 12月5日に頻回の下痢があった。家族3人の検便結果は陰性であった。

事例4:2001年12月18日に48歳の男性の届け出があった。患者は12月8日、 10日に生カキを摂食し、 12月13日に水様便が1日に3回あった。その後も、 軟便が18日まで続いた。家族3人の検便結果は陰性であった。

事例5:2001年12月22日に5歳の男児の届け出があった。患者は12月19日に頻回の水様便、 発熱(39℃)、 20日に粘血便を伴う下痢があった。保健所は家族8人の検便を行ったが検査結果は陰性であった。また、 12月23〜25日に患者が通っている保育園の職員(14名)、 園児(46名)を検査した結果、 職員2名、 園児14名、 計16名の菌陽性者があった。そのため、 12月25、 26、 27日に菌陽性者家族(73名)、 患者宅井戸水(1件)の検査を行った結果、 4名の菌陽性者があった。また、 保育園のふきとり(9件)、 12月17日のもちつき大会で作ったもち(持ち帰り)と摂食したケーキを含む検食(13件)の検査を行ったが陰性であった。

さらに、 もちつき大会を隣接する保育園と合同で行っていたため、 12月27、 28日に隣接保育園の職員(17名)、 全保育園児(161名)、 行事に参加した父兄(67名)の検便を行ったがすべて陰性であった。

2002(平成14)年1月3日から菌陽性者の陰性確認検査および菌陽性者家族、 保育園児および職員について検査を行ったところ、 新たに菌陽性者家族から4名の菌陽性者が確認された。また、 12月26日に菌が検出された菌陽性者から、 2002年1月7日、 21日、 22日に菌が検出され、 再度投薬後、 2月5日に検査を実施したところ陰性となった。検査数は検便314名 555件、 ふきとり9件、 食材13件、 水1件であった。

菌陽性者25名のうち22名が有症状者(うち園児16名)で、 その症状は発熱21名(84%)、 下痢20名(80%)、 水様便および腹痛8名(32%)、 嘔吐4名(4%)、 悪心3名(12%)および血便1名(4%)であった。

感染原因については、 各家庭に疫学調査を開始したのが保育園職員から赤痢菌が検出された翌日の12月25日であったため、 10日以上まえの食事内容を忘れていた家庭が多く、 摂食調査が十分にできなかったが、 患者家族のうち2家族が生カキを摂食していたことが判明したこと、 保育園の衛生管理が悪く、 手洗い等の不徹底から二次感染を起こしたものと思われる。

事例6:2002年1月17日に21歳の男性の届け出があった。患者は1月11日から水様便、 腹痛、 発熱の症状があった。保健所が行った家族(2人)検便で、 父親と母親から菌が検出された。患者の父親と母親は2001年12月末(20日以降)に生カキを摂食していた。父親は2002年1月4日から、 母親は2001年12月29日から下痢、 腹痛、 発熱の症状があったことから患者は父親もしくは母親から感染したものであると考えられた。

また、 陰性確認検査を行ったが父親と母親から菌が検出され、 再度投薬後、 父親は2月15日、 母親は3月1日に陰性となった。その際、 抗菌薬の影響で菌が選択培地に全く発育しないことを考慮し、 TSB培地で増菌培養を併用し、 BHI寒天培地に細菌の発育を認めたうえで選択培地DHL培地、 SS培地およびクロモアガーTAM培地に菌が発育しなかったので陰性とした。

今回の各事例については全事例の患者もしくは家族が生カキを摂食しており、 PFGEパタ−ンが全国で発生した生カキ関連のパターンと一致したことにより、 全国的に多発した生カキを原因とするdiffuse outbreakであったと思われる。

便の検査法は、 直接塗抹法で行った。なお、 事例4を除き、 排菌量の少ない者および抗菌薬の影響を考慮しTSB 培地(好気培養)で6時間培養後、 Shigella sonnei I相血清にて感作させたビ−ズ法を併用し、 DHL、 SS、 クロモアガーTAM(事例6のみ)に塗抹培養したが、 便中の共雑菌が多いためビーズ法のみで赤痢菌を検出したものはなかった。Shigella broth増菌培地での嫌気培養を試みるなど、 今後も検討をする必要があると思われる。

佐賀県衛生薬業センター 増本喜美子 森屋一雄 隈元星子
佐賀中部保健所、 鳥栖保健所、 杵藤保健所

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