小規模水道のカンピロバクター汚染を原因とする特異な食中毒事例が発生したので概略報告する。
事件概要:2002(平成14)年10月10日、 秋田県F町の小学校からD地区在住児童7名のうち、 入院2名を含む6名が腹痛、 下痢、 発熱等の症状を訴えており、 その居住地区では同一の少規模水道を利用している。また、 医療機関を受診した3名の患者からカンピロバクターが分離されたとの情報が、 F町役場を経由して保健所に報告された。保健所で調査したところ、 D地区8世帯13名(男7、 女6)の患者が確認された。患者らの共通食品は飲料水に限られ、 飲料水を供給していた小規模水道の2カ所の水源および患者便・家族便から同一菌型のCampylobacter jejuni (以下C.J)が検出されたことから、 本菌を原因とする食中毒事件と断定された。
汚染源と考えられた小規模水道:当該小規模水道の利用者は12戸44名であり、 利用者以外に患者発生は見られなかった。当該小規模水道はA(湧水)、 B(沼沢水)の2カ所の取水池から取水し、 2系統が合流した配水池から各組合員の家に供給されていた。湧水の取水場所はコンクリートで囲われ蓋もされていた。沼沢水は沼に貯留した水を直接取水していた。水源周囲には囲い等がなく、 野鳥が水辺に集まっている状況が確認され、 野鳥等による糞便汚染の可能性が考えられた。使用水の塩素滅菌は味が悪化する等の理由から、 1996(平成8)年頃より行っていなかった。
分離検査結果等:F町から当所に依頼された2カ所の水道原水についてカンピロバクター検査を実施した。検水3lをろ過したフィルターを15mlのプレストン増菌培地に投入し42℃ 24時間微好気培養後、 CCDA培地で分離培養した。その結果、 2検体どちらからもC.Jが分離され、 分離株の血清型はすべて、 Liorの型別に準拠したカンピロバクターレファレンスセンターの型別ではLIO 7、 Pennerの型別に準拠したデンカ生研抗血清を用いた型別ではO群であった。一方、 患者が受診した医療機関で分離されたC.J 3株と担当保健所で分離された患者および患者家族由来C.J 10株について血清型別を実施したところ、 13株の血清型はすべて水道原水由来株と同じくLIO 7、 O群であった。
今回の水道原水の検査において、 同一検体であるにもかかわらず、 OXOID社のマニュアルに従って血液を添加したプレストン培地を使用した場合はC.J分離陽性であったが、 血液未添加のプレストン培地を使用した場合はC.Jを検出できなかったことを経験した。このことは環境水検体等、 損傷菌が含まれていると考えられる検体を検査する際には、 損傷菌の存在を考慮した適切な増菌培地を選択することが非常に重要であることを示すと考えられた。また、 当所ではこれまで検水からのカンピロバクター分離陽性例がなく、 検水中の菌数は非常に微量との先入観から定性試験のみを実施し、 定量試験を実施しなかったことが反省点であった。
事件後の対応:小規模水道事業者は保健所の指導に基づき配水池に塩素滅菌装置を更新設置した。その後、 11月14日に当所に検査依頼のあった当該飲用水について検査した結果、 カンピロバクター陰性が確認された。
秋田県衛生科学研究所微生物部
齊藤志保子 八柳 潤 佐藤晴美