仙台市では、 10月中旬〜11月中旬にかけ、 かぜ様症状を訴える患者が多かったが、 患者から分離されるウイルスはパラインフルエンザおよびエンテロウイルスが主流であった(10月28日〜11月15日の3週間で各々10件、 7件の分離)。しかしその後、 11月中旬〜下旬にかけ、 仙台市宮城野区および青葉区内において採取された臨床検体より、 AH3型が3株分離された。同市で今シーズン初となる分離であり、 韓国で感染した可能性も疑われる例であった。
患者は仙台市宮城野区内に住む16歳の女子(患者A)および青葉区内に住む16歳の女子(患者B)と、 患者Aの43歳の母親(患者C)である。患者Aの発症は11月18日で、 頭痛に始まり、 発熱、 咳、 関節痛、 筋肉痛といった典型的なインフルエンザ様の症状を訴え19日に近医を受診した。受診時、 体温は38.8℃あり、 インフルエンザを疑った医師が、 咽頭ぬぐい液を採取し、 インフルエンザ迅速診断キット検査(ラピッドビューインフルエンザA/B;住友製薬バイオメディカル社)を実施したところ陽性(ただし当キットではA型とB型の判別は不可能)を示したため、 ふたたび咽頭ぬぐい液を採取した。患者Bは11月17日、 嗄声と発熱(38.5℃)で発症し、 その後咳、 鼻水、 喀痰の症状を示し、 11月20日になり市内の病院を受診し、 胸部X線撮影の成績により軽い肺炎と診断された。検査値ではWBCは 4,900で、 上咽頭ぬぐい液での細菌培養は陰性であり、 細菌性の肺炎の可能性は否定的であった。この咽頭ぬぐい液は迅速診断キット(キャピリアFluA, B;日本べクトン・ディキンソン社)でA型のみに反応したため、 その後4℃に保存された。
患者AおよびBは同じ高校に通う同級生であり、 11月14日〜18日にかけ修学旅行で韓国を訪れ、 帰国前日、 あるいは帰りの飛行機の中での発症であった。これまで今シーズン仙台地域ではインフルエンザ様疾患の流行もウイルスの分離もなく、 一方韓国では同時期にインフルエンザの大きな流行があり、 AH3インフルエンザウイルスの分離が相次いでいた。(韓国国立保健院感染症発生週報;CDWR)。なお、 山形県でも同時期、 同様に韓国への修学旅行から帰ってきた2つの高校でインフルエンザ様の呼吸器疾患の流行の報告があり、 母親を含め、インフルエンザ迅速キットでのA型陽性例が2例出ていた(山形県感染症発生動向調査第47週)。
国立仙台病院ウイルスセンター
岡本道子 近江 彰 伊藤洋子 千葉ふみ子 鈴木 陽 渡邊王志 西村秀一
庄司内科小児科医院 庄司 眞 庄司 聡
東北労災病院小児科 遠藤廣子
山形県衛生研究所 溝口二郎