2002年11月中旬に新居浜市内の小児科医から新居浜市を通じ、 成人麻疹が急増しているとの情報提供があった。県東部地域3保健所の調査により、 10月7日〜11月21日までに、 新居浜市およびその周辺地域で47名(うち成人麻疹31名)の患者が確認され、 地域的流行の兆しが見られた。この状況を鑑み、 県では11月21日に麻疹対策連絡会議を開催し、 疫学的調査方法や予防接種の勧奨などの対策を協議した。3保健所管内の全医療機関を対象にした調査で、 12月11日までに97名の患者が報告され、 そのうち18歳以上の成人麻疹が59名含まれていた。年齢別では20代が40名(41%)と最も多く(表1)、 ワクチン接種の既往が明らかであった者は15名(15%)であった。
今回の地域流行では成人麻疹の占める割合が高いため、 積極的にウイルス学的検索を行った。B95a細胞を用いたウイルス分離とRT-PCRによる麻疹N遺伝子の検出を行い、 これまでに5例(血液5件、 咽頭ぬぐい液3件)から麻疹ウイルスが分離された。分離陰性例のうち1例はRT-PCR陽性であった(表2)。
また、 セロディア−麻疹(PA法)および麻疹IgM(II)-EIA「生研」を使用し、 麻疹PA抗体価およびIgM抗体価を測定した。その結果、 ウイルス分離陽性の1例を除きすべてIgM抗体陽性で、 被検者すべての麻疹罹患が確認された。ウイルス分離陰性の3例は、 急性期のPA抗体価が非常に高いという傾向がみられた。
今年の分離株4株と2001年分離株4株、 計8株からRT-PCRでN遺伝子3'末端領域を増幅し、 群馬県衛生環境研究所でダイレクトシークエンスを実施した。得られた8株の塩基配列456bpを日本DNAデータバンク等から入手した各遺伝子型の塩基配列とともに、 NJ法によって系統樹解析した。今年の分離株は4株すべて、 遺伝子型H1型の代表株MVi/Hunan.CHN/93/7と同一のクラスターに属したことから、 H1型であることが明らかとなった。また、 4株の塩基配列の相同性は100%一致していた。一方、 2001年分離株はすべてD5型で、 国内で流行している株であった。
H1型麻疹ウイルスは、 2001年に東京都と川崎市で(IASR Vol.22、 No.11参照)、 2002年に大阪市で(IASR Vol.23、 No.11参照)、 散発麻疹から分離されており、 また2002年3月には北茨城市の中学校における集団発生も報告されている。今回の愛媛県における成人麻疹からのH1型の分離は、 国内で初めての事例である。
愛媛県では、 今後の患者発生動向を監視するため、 県下全域で成人麻疹患者の全数把握調査を継続中である。
最後に、 患者数の把握と検体採取にご協力いただきました関係医療機関の先生方に深謝いたします。
愛媛県立衛生環境研究所
吉田紀美 竹内潤子 近藤玲子 烏谷竜哉 大瀬戸光明 高見俊才 山下育孝
奥山正明 浅井忠男 井上博雄
群馬県衛生環境研究所 木村博一 森田幸雄 齋藤美香 長井 章
新居浜保健所 西原正一郎
西条中央保健所 佐伯紀之
伊予三島保健所 安岡賢治