レジオネラ症とは:レジオネラ症はグラム陰性細菌のレジオネラ属菌による感染症で、 その病型は肺炎型(レジオネラ肺炎)と感冒様のポンティアック熱とがある。1976年に米国フィラデルフィアで開催された在郷軍人(The Legion)大会における集団肺炎の起因菌として、 レジオネラ属菌の基準種であるLegionella pneumophila が新科(Legionellaceae )新属新種として命名された。現時点で、 48種ものレジオネラ属菌が同定されている。その多くのものに病原性があると考えられているが、 報告される起因菌の大多数はL. pneumophila である。
レジオネラ肺炎は、 臨床症状では他の細菌性肺炎との区別は困難である。発熱、 全身性倦怠感、 食欲不振、 筋肉痛などの症状に始まり、 呼吸困難、 咳嗽、 喀痰、 胸痛などの呼吸器症状が見られるようになる。傾眠、 昏睡、 幻覚、 四肢の振せんなどの中枢神経系の症状が出現することもある。胸部X線所見では肺胞性陰影であり、 その進行は速い。患者の8割以上が男性で、 また、 8割以上が50歳以上の中高年者である。喫煙者、 大酒家、 基礎疾患を有することなどはレジオネラ症の危険因子となる。β-ラクタム系やアミノ配糖体系抗菌薬の無効、 発病前2週間の旅行歴(特に入浴施設の利用)がないかどうかは診断の参考になる。検査法:レジオネラ属菌は通常の細菌検査では培養不能なので、 レジオネラ症の疑いがあるときは、 専用の検査を行う必要がある。本菌はバイオセーフティー・レベル2であり、 検体はP2実験施設で取り扱う。
レジオネラ症の検査には、 尿中抗原検出、 培養、 血清抗体価の測定およびPCR法がある。酵素抗体法による尿中抗原の検出は特異性が高く簡便迅速で、 感染早期から陽性となるため、 急速に普及してきた。L. pneumophila あるいは、 その中でも血清群1を4時間で検出できる。さらにイムノクロマト法のキットを用いれば、 L. pneumophila 血清群1に限るが15分で検出できる。尿中抗原量は病勢の推移とほぼ対応し、 回復につれ減少する。
喀痰、 肺組織、 胸水、 血液などからの菌の分離にはレジオネラ専用の培地(BCYEα、 あるいはそれに抗菌薬を含んだもの)を用いる。雑菌を除去するため、 検体の前処理として、 酸処理および熱処理を行うと、 レジオネラ属菌の検出率を上げるのに有効である。尿中抗原検出法の普及により、 培養法による陽性率が低下傾向にあるが、 感染源の解明など、 疫学的に見て、 起因菌の分離は重要である。レジオネラ専用培地上で、 特有の灰白色の湿潤集落を形成し、 血液寒天培地では生育しないとき、 レジオネラ様菌であると考えられる。市販の抗血清により、 L. pneumophila 血清群1〜6、 L. micdadei 、 L. dumoffii 、 L. bozemanii 、 L. gormanii の同定が可能である。また、 L. pneumophila 血清群7〜15に対する抗血清も、 研究用試薬として入手可能である。DNA-DNAハイブリダイゼーションキットを用いれば、 L. pneumophila など25菌種の同定が可能である。
血清抗体価の測定法には、 間接蛍光抗体法およびマイクロプレート凝集法がある。L. pneumophila 血清群1に対する抗体価のみがふつう測定されているのが現状である。単一血清で、 間接蛍光抗体法では256倍以上、 マイクロプレート凝集法では128倍以上、 ペア血清(1週間以内の急性期血清と、 間接蛍光抗体法では3〜6週後、 マイクロプレート凝集反応では2〜3週の回復期血清)で4倍以上の上昇で、 かつ回復期血清がそれぞれ128倍、 64倍以上であったとき、 陽性と診断される。血清抗体価の測定は従来から行われてきた診断法だが、 診断までに日数がかかる。したがって、 レジオネラ症が疑われた場合、 喀痰からの培養を行うとともに、 尿中抗原の検出による迅速診断を行い、 それらの検査で陽性とならなかった場合に、 ペア血清による抗体価の検査を行うとよい。
PCR法は陽性率が高く、 きわめて有用な方法であると考えられるが、 精度管理の問題等もあり、 本症の検査においては現在のところまだ一般的ではない。
感染源の特定には、 環境分離株と患者分離株の同一性を明らかにすることが必要だが、 そのための分子疫学的手法としては、 パルスフィールド・ゲル電気泳動法が有用である。
国立感染症研究所・細菌第一部 前川純子 倉 文明